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写真論15 料理か菓子か

写真論15 料理か菓子か

おはようございます。
 午前8時半、朝礼。夕方まで決まった予定は入っていなかった。しかし、ハードな一日だった。文書の手直し、原稿、事務的作業、各種手配。午後6時半、同友会事務所。中小企業家同友会とかち支部四役会。9時過ぎ帰宅。

ミニコピー+POTA

ある海外ドラマを見ていたら、「料理をつくるのが好きか、菓子づくりが好きか」というシーンがありました。料理好きはアバウト、菓子好きは論理的とのこと。確かにそんな感じがしますね。厳密に分量を量るのは菓子をつくるとき。日常の料理づくりの中で、はかりや計量スプーンを使うことはほとんどありません。味見しながら理想の味に近づけていく。
 そこで思ったのは、撮影は料理に近く、フィルム現像は菓子づくりに近いということでした。
 厳密に計算して撮影することもたまにありますが、たいていの場合は撮りながら考える。あるいは、考える前に撮ってしまう。違ったな、と思ったら再度撮る。特に、デジタルカメラになってからは「考える前」が増えました。場合によっては、考える前に撮影が終わってしまうこともあるくらい。撮り終わって、しばらく経ってから考える。そのときには、撮影意欲は低下していたりする。モチベーションをコントロールしないと、考えない写真が増えることになりそうです。
 今はデジタルの時代なので、フィルム現像をする機会は皆無となりました。僕がフィルム現像をしていたのは、1977年から1995年頃まで。1990年代半ばは極限まで(大袈裟かな)働いていたため、現像する余裕はありませんでした。
 現像薬は自分で調合するようにしていました。学生時代は節約のため。単薬を購入し、自分で調合すると半額以下になったのです。上皿天秤が必需品でした。自家調合なので既製品にはない現像液を試してみることもありました。D96とか二浴式現像液とか。
 社会人になると既製の現像液を使う機会が増えました。ただ、どういうわけか1987年から88年にかけて、チャレンジャーな現像液を使うことにしたのです。それはPOTAと呼ばれる超軟調現像液。使う薬品は、無水亜硫酸ソーダとフェニドンのみ。調合そのものは楽。この現像液は普通のフィルムに使うと軟調になりすぎる。当時、富士フイルムから発売されていたミニコピーというフィルムと組み合わせると、素晴らしい画質になったのです。
 ただし、現像の仕方が恐ろしく難しい。注意深く現像しても、現像ムラが出やすい。撹拌が弱くても強くてもムラが出る。普通のフィルム+普通の現像液にすればよかった……。そんな気持ちになることがしばしば。苦労して撮影したものがフィルム現像で無に帰すのですから、ものすごく落ち込みます。
 一度始めたら、後戻りできないというのもミニコピー+POTAの恐ろしいところ。35ミリのカメラで撮影しても4×5に匹敵する画質になる。しかも、階調が普通のフィルムとちょっと違っている。このため、異なる処理をした作品と並べて展示すると違和感が生じることになる。POTAとの格闘の末、開催にこぎ着けたのが僕にとっての初個展(1988年、京都・ギャラリーDOT)。
 なぜ、こんな成功率の低い方法を選んだのか。今もときどき考えることがあります。当時、会社員になることを断念して、自分の仕事人生をどのようにしたらよいものか、悩んでいた時期でした。そんな心理状態だったため、自分で自分を追い詰めるようなやり方を無意識に選択していたのでしょう。
 フィルム現像は論理思考で行われるものですが、単純にレシピ通りになるものではありません。たぶん菓子づくりも同じでしょう。僕の性格は菓子よりも料理に向いている。しかし、たまにパンを焼いたりすると、フィルム現像をしていた日々を思い出すことがあります。

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