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第10話 青臭いトマト

第10話 青臭いトマト

おはようございます。
 大変なことになってしまいました。佳境、ギリギリの攻防が続いているというのにパソコンが不調に。ノートPCの画面が乱れ、使い物にならない。外付けのモニターだけで作業するという状態。本体を修理にさねばなりません。まずは入稿まで、これ以上症状が悪化しないを祈るのみ。

「青臭い」と「未熟」の微差

それでも食べ物の話が続きます。一昨日の食事会、最後に出てきた料理はトマトソースのパスタ。もともとは僕の数少ない得意料理のひとつでしたが、今回はM氏主導で作られました。僕は大量の具材を炒めただけ。
 僕の作り方では必ずカレー粉を入れることになります。まあ、カレー粉を入れると何でもおいしくなる。そのあたりがM氏には気に入らないらしく、さわやかなトマト味に仕上げたかったらしい。大量のトマトを刻み入れ、さらにトマトミューレーやトマトペーストを投入。ものすごくトマト寄りのソースができあがりました。
 なるほど、これはおいしい。僕のトマトソースとは異なる考え方で作られた味。やはりちょっとプロっぽいな。この点は素直に認めざるを得ません。
 今ではトマトが好きという人はけっこう多いのではないかと思います。
 けれども、昔はどうだったのでしょう? 好きか嫌いか、けっこう半々に分かれるような食べ物でしたね。おそらく、その理由はトマト特有の青臭さにあったのではないかと思います。実際に青いトマトにかぶりつくということも多かった。
 僕はわりと好きですね、青臭いのが。僕自身、ずいぶん青臭い人間なのでしょう。
 今では信じられない食べ方ですが、子供の頃はトマトに砂糖をつけていました。この食べ方は特殊なものではなく、イチゴにもつけていたはず。たぶん、その頃のイチゴは今に比べると甘くなかったのでしょう。他にも砂糖をつけて食べる果物があったような気がします。
 トマトは果物ではありませんが、僕のイメージとしては果物と野菜の中間。したがって、トマトを甘くして食べるのは普通のことでした。
 青臭いのに甘い。このあたり、僕の人生を象徴するような食べ物といえるかもしれません。今でも本質はさほど変わっていないな……。まだまだずいぶん青臭い。
 青臭い=未熟ということ。ですが、両者は微妙にニュアンスが異なる言葉のような気がします。未熟とは成熟に至るまでの途中にある状態のこと。一方、青臭い人というのは必ずしも成熟を目指しているわけではない。ずっと青臭いまま生きていこうとする人もいるのではないかと思います。僕はこう見えてもゆっくりと成熟に向けて歩を進めていますが、世の中には成熟とは無縁の人もいます。

そうした青臭い生き方を求める人も少数ながらいるとはいえ、全体としては減っているのではないかと思います。みんな、何となく考え方が大人びている。大人が大人びているのは普通かもしれません。けれども、10代、20代の人が大人びていると、「熟しすぎじゃないの?」と思ってしまいます。
 そこでハタと気づきました。そういえば、青臭いトマトを最近食べていないな……ということ。トマトがみんな完熟っぽくなっているのです。
 トマトの種類もずいぶん増えましたね。酸味の強いものからフルーツトマトまで、味にもずいぶんバリエーションがある。それぞれおいしい。そのこと自体は、とてもよいことです。
 一方、味という点ではちょっと見劣りのする昔ながらの青臭いトマトを見かけることがなくなりました。単なるノスタルジーかもしれません。けれども、青臭くて、硬くて、ちょっと筋っぽいトマトをそのまま食べてみたい。そんな欲求を感じることがあります。きっと、子供の頃とは違った味わいを感じることになるのではないか? 自分の生き方を見つめ直すような味になりそうです。
 普通にスーパーで売られている赤々としたトマトに慣れている若手の人たちは、たぶん最初から成熟した考えを受け入れてしまっているのかもしれません。「世の中、間違っている」と思いながら青臭いトマトにかぶりつくという経験があってもよいのではなかろうか(思えば変な子供でしたね)。
 昔も今も、世の中には間違っていることが山ほどあります。間違いを正そうという人もいますし、軌道修正して正しい道に引き寄せようとしている人も少なからずいる。実際、昔の間違いのいくつかも修正されている。ですから、世の中をよい方向へ変えていこうとする努力が無になることはないはずです。

トマトという食材に過大な期待をかけるのは禁物ですが、僕は今でもトマトの中にある酸味を通じて、昔の青臭いトマトの味や食感を思い出そうとしています。青くて硬い。その中にあるジュルッとした感触。それが苦手という人も多いわけですが、僕にとってはトマトの原体験でしたね。
 そういえば、3日前、トマトソース作りの際にM氏はトマトの皮をむいていました。僕は皮をむく代わりに目をむいていました……。というのはウソで、単に驚いただけです。トマトの皮をむくたびに、僕は何度でも驚きます。トマトは皮と中身(ジュルッとした部分)のコントラストがおいしさの秘密ではないかと思っているからです。加熱され、トマトソースになるとはいえ、何となく残念に思ってしまうのは僕だけでしょうか?
 青臭いトマトを食べる機会は失われたとはいえ、僕のトマト消費量は年々増える傾向にあります。パスタとカレーにはかなりの分量のトマトが投入される。単にトマト缶を入れることも多かったのですが、近年はフレッシュなトマトの使用量も増えました。昨年からは「クナウ農場」と呼んでいる家庭菜園からも収穫できるようになりましたから、ちょっと青っぽいトマトを食べることも可能。
 単に未熟というのではなく、昔のトマトにあったえぐみのようなもの。欲をいえば、これをもう一度味わってみたいですね。

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