
おはようございます。
梅雨っぽい、というよりも明らかにこれは梅雨ですね。北海道も本州の気候に近づいてきました。
そんな中、午後7時から同友会の経営指針委員会が行われ、勉強会を含め2時間以上、熱いディスカッションが繰り広げられました。一番熱くなったのは、経営指針研究会で使用されるシート集の解釈。もちろん、委員会としての統一見解はあったほうがよいわけですが、解釈の幅を狭める必要はない。経営に正解はない(答えはひとつではない)のと同じように、経営指針にも正解はありません。答の出ない問題に対して答を求め続ける。それが経営であり、人生なのでしょう。
文章の書き方も当然ながらひとつではありません。僕の方法は30年以上書き続けてようやくたどり着いた結論。それを「書けない」と思い込んでいる人に向けて、やさしく伝えようと思って著したのが「写真家的文章作成技法」です。
前回は「一文を短く」という話がメインでした。今日は文章の中身について考えていきます。
コンテンツはあるか
僕はあるとき、重大な発見をしました。10数年前から、出版広告部では「800字レポート」という課題が出されるようになりました。講演を聴いて、あるいは文献を読んでのレポート。みんなの書いたレポートは僕も目を通します。
そうすると、驚いたことにほぼ全員、ちゃんとした文章、それも立派な文章を書いているではありませんか! 編集者だけではなく、フォトグラファーもデザイナーも、間違いなく文章力を持っている。僕が社内で文章講座を行う意味はあるのだろうか……と思ってしまうほど。
800字レポートで立派な文章を書く人が、取材記事ではイマイチな文章を書いて編集長を困らせる……。あるいは「書けない」と悩んでしまう。これはなぜなのか?
僕の発見は、書くことが苦手と思っている人の持つ最大の課題は、実は「書くべき中身を持っていない」ということでした。コンテンツがない、または不足している。そこに書けない理由があるのです。
「そんなはずはない。取材でいい話を聴いてきた」と言う人も多いでしょう。確かにいい情報、いい素材はいっぱいインプットしてきたはず。しかし、「書くべき中身」とは自分というフィルターを通して得た、思い、考え、解釈、結論といったもののこと。十分に考えたり、自由に感じたりしなければ、書くべき中身は得られないのです。
雑誌や新聞のコラムを読んでいても、今一歩メッセージが伝わってこない記事を目にすることがあります。これは書き手の文章力(特に技術面)の問題ではありません。取材が不十分なため、自分の中で消化されていないというのが真相でしょう。
自分でもそれを感じることがあります。なかなか書き進められない……。そんなときは情報が未消化だったり、自分の考えに迷いがあるのです。
話すことは得意だけれど、文章を書くことは苦手。そんな人は自分の頭の中にコンテンツがあるか、チェックする必要があるでしょう。
話し言葉の場合は中身がなくとも、日本語として変であっても、何となく成立してしまうものです。話を聞く相手が好意的に解釈してくれることが多い。文章の場合は書いたものが残ってしまいますから、変な日本語、意味不明なメッセージが何10年もそこにありつづけることになるのです。
消したい、直したい。そう思っても印刷物、出版物ではほぼ不可能。僕にも痛恨のミスがいくつかあります。
共感と納得を得る文章
幹部の持つべき文章力。それは自分の思いや考えを正確に伝えるためのもの、と考えるべきでしょう。理性的、合理的に書く能力が求められる。ただ、理性的すぎると印象には残りにくい。ある程度は感性に訴えかける表現も必要となってきます。
自分がぜひとも実現したいと思っている企画を上司に提案する。こんなとき、どんな企画書を作成するでしょう? たぶん、ほとんどの企画は次の3要素から成り立っているのではないでしょうか。
1.主題(持論・自説)
2.自分の思い
3.エビデンス(論拠)
他にもあると思いますが、大きくはこの3要素です。企画書はパワーポイントのスライドだったり、数1000字に及ぶ文章だったりすることもあるでしょう。伝える方法は異なっていても、主題、思い、エビデンスの3つは変わりません。主題を大黒柱と位置づけ、その両脇を思いとエビデンスで固めていく。そんなふうにイメージしてみてください。
主題は大黒柱なので、気をつけるべき点はグラグラさせないことです。文章の場合、書き進めるうちにあれも書きたい、これも書きたいという状態になりやすいい。文章の最初と最後がまったく関係のない話になっていた……なんてことにもなりかねません。主題を明確にする。話が枝葉に及んでも、再び主題に戻すようにすべきです。
思いが強ければ、文章が主題から離れていく心配はありません。つまり、自分の中に強烈な動機や思い、書かずにはおられない何かがあるかどうか? ここが重要ですね。
ただ、思いが延々書かれていると、読み手はげんなりしてしまうことがあります。「気持ちはわかるけれど……」ということになりやすい。納得性を高めるにはエビデンスがポイントとなります。
エビデンスは次の3種類を使い分けましょう。
1.客観データ
2.信頼すべき人物、文献からの引用
3.自分の発見した相似形
信憑性という点では「客観データ」が一番。特に、企画書づくりでは欠かせません。しかし、文章では最小限に抑えるべき。おもしろみが薄く、多用すると退屈な文章になってしまうのです。
文章になじませるなら、「引用」のほうが使い勝手がよいと思います。ここで気をつけるべき点は、読み手の共感が得られるような人物の言葉や文献を選ぶことです。古いタイプの経営者はここで失敗するケースが多い。
卓越した文章力を持つ人の場合、意識的かどうかは別として「相似形」を文章の中に取り入れて書いていることでしょう。相似形とは単純に「○○は□□に似ている」といったもの。僕の文章表現の中でも随所に相似形が登場します。
一番よく使うのは、企業経営と人生との相似形でしょうか。僕の文章では、「同じことが人生にも当てはまります」といった類の文が多いと思いませんか? 個人と企業、地域、日本、世界。すべてつながっていますから、比較的容易に相似形を発見することができます。
また、歴史の中にも相似形が無数に隠れています。15世紀の活版印刷による情報革命と現代のインターネット革命。両者にも相似形がある。こうした相似形からユニークな解釈を引き出すと、文章ががぜんおもしろいものとなっていきます。