おはようございます。
上ノ国、乙部、森、八雲でそれぞれ取材。ハードというわけではないが、前日に続いてホットな日。一時、温度計が37度を指していたが、本当なのだろうか? 体感としては先週経験した東京の39度に匹敵する。湿度も高い。そんな中、編集者のT氏、I氏は泰然と取材活動に徹していた。宿泊はせたな。素泊まりの予約だったため、熊石(八雲町)まで戻って夕食。久しぶりにアワビを食べた。
スロウ創刊から14年。いつも感じるのは、取材の仕方は十人十色ということです。僕は歴代編集者すべての取材に同行しています。全員の特徴、癖、強み、弱みを知っている。たぶん、他のフォトグラファーも僕と同じように感じているのではなかろうか? 創刊から今日まで、ユニークな編集者がスロウをつくってきましたから、取材の場面でも不思議な瞬間に出合うことがときどきあります。
昨日、考えていたことは、取材スタイルには系譜のようなものがあるのではないかということ。一部の編集者を除き、スロウ編集部は未経験者を採用しています。我が社は新卒採用が多いので、どの部署でも未経験者ということになります。取材の仕方がまったくわからないというところからスタートする。したがって、最初のうちは先輩社員のやり方を真似るというところから始まるわけです。
誰が指導したか、どの編集者と同行取材したか。ここが案外重要なポイントなのではないか? 歴代編集者の取材の仕方を思い出してみると、先輩・後輩のつながりのようなものが見えてきます。師弟関係というほどではありませんが、取材スタイルという点では、みな何かしら影響を受けているような気がします。
ただ、よくわからないのは、それが文章にどのくらい影響を及ぼしているのか、というところ。取材の仕方によって、文章はまったく異なるものになってくのだろうか? ここが僕にはよくわかってない。現時点での僕の考えは、「方法は違っていても、たどり着くところは同じ」というもの。速やかにたどり着く人もいれば、時間のかかる人もいる。実に変わったやり方で取材相手から本音を引き出す人もいます。
今思うと、創刊当時のメンバーは誰かから取材の仕方をしっかり教わったというわけではなかったと記憶しています。経験豊富な編集長がいるので、手取り足取り教わればよいと思っていましたが、みな独自に自分のやり方で勝手に(?)取材を行っていました。もしかしたら、僕の知らないところで指導が行われていたのかもしれませんが……。
いや、そんなはずはないな。当時の編集者は三者三様、まったくスタイルが違っていた。いかにも手探りといったやり方で、初期の頃の取材は進められていたのです。
今の編集部では、たぶんていねいな指導が行われていることでしょう。どちらがよいか、僕にはわかりません。
フォトグラファーのほうはどうなのだろう? ちなみに、僕は一切指導は行っていません。質問されたらいくらでも自分のノウハウを伝える用意があります。しかし、我が社に僕の撮り方、写真についての考え方を知りたいと思うフォトグラファーはいないようです。それぞれ、独自の道を歩んでいるように思えます。これは文章と写真の制作プロセスの違いによるものなのかもしれません。
誰かから教わって強い影響を受けると、自分の世界観が表現しにくくなるような気がします。影響を受けること自体、悪いことではありません。ただ、師弟関係が強すぎると、その影響から脱して「自分らしさ」を打ち出していくのに苦労することとなる。写真は直感的な選択の積み重ねによってつくられるもの。この直感の部分に師の影響が大きく混じり込むと、師匠と同じような写真を撮ってしまうようになるのではないか? そんな感じがします。
文章の場合は、取材ですべてが決まるわけではありません。むしろ、取材で集めた素材を頭の中で再構成する作業が重要となる。理性能力が文章のクオリティを左右することになるでしょう。撮影時にほぼ勝負がついている写真に対し、文章では取材後に自分の能力、実力が試される。しょぼい取材の仕方をしていても、いい記事になっている……。そんな事例もありますね(僕のことか?)。
写真でも文章でも、必要不可欠なのは「自分の世界観を認識している」ことではないかと思います。自分の生み出したいものをイメージしている。あるいは、自分のつくり出したい結果を理解している。そのあたりを曖昧にしすぎると、行き当たりばったりの取材、撮影になりやすい。
自分の追い求める世界に向かって努力を積み重ねていったら、自分独特の取材の仕方になっていた……。そんな状態が理想的なのかもしれません。
今のクナウマガジンは、だいたいみんな理性能力が高い。したがって、短期間のうちに標準的な取材スキルを身につけています。僕よりも数段取材スキルが高い。今後の課題としては理性能力に加えて、「理想能力」を身につけることでしょうか。理想を描く力。自分の書いた文章、つくった記事によって、世の中にどのような影響を与えたいのか、自分自身の人生にどのような結果をもたらしたいのか? このあたりを深めていくことでしょう。どのような職種であっても、仕事で目指すべきところは理想の追求にあるのではないか、と僕は考えています。