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第16回 そーっとエピソードを・・・

第16回 そーっとエピソードを・・・

おはようございます。
 昨夜、東京から戻ってきました。最低気温マイナス4℃。それがどうした?・・・という感じですが、実に48年ぶりの冷え込みなのだそうです。大ニュースなのでしょう。一方、道内の喜茂別では31.3℃(道民はいちいちマイナスとは言わない)。テレビでは「大木が音を立てて裂けるくらいの寒さ」と言っていました。迫力が伝わってきますね。
 ちなみに帯広の過去最低気温は38.2℃。日本の公式記録では旭川の41.0℃が一番。ともに1902年の記録。きっと、その年の陸別や幌加内はもっと寒かったんだろうな・・・。
 僕の子供時代も30℃は何度か経験しました。しょちゅう、ストーブの上に乗せていた蒸発皿の水がカチカチに凍っていました。夜寝るときの必需品は豆炭あんか。学校へ行くときは、確か児玉兄弟商会のカイロをポケットに入れていたと思います。長靴をストーブで温める、という小技も使っていましたね。今はどんなに冷え込んでも通勤時間は徒歩40秒。楽なものです。
 さて、今日は昔話から入ってしまいました。僕もいつの間にか昔を語る年になっている・・・。驚きです。今年は平成30年。平成生まれの人も、もうすぐ30代に突入するんですね。元号が変わったら、昭和生まれの人は年寄りと思われることになるでしょう。
 それはさておき、今回は文章中にさりげなく盛り込みたい「エピソード」について書くことにしましょう。

センスで心地よい風を吹き込む

エピソードとは、「本筋と直接的には関係なく、物語中にはさみ込まれる小話」のこと。あるいは「ある人や出来事にまつわる、あまり知られていない興味ある話」。
 自分のまわりにはきっと数々のエピソードが隠されているのではないかと思います。自分の人生の中にもエピソードが散りばめられていることでしょう。これをそーっと自分の文章の中に挿入する。そんな文章づくりを紹介したいと思います。
 文章作法の前に、講演や講義を聴いている自分を思い浮かべてみてください。講師がパワーポイントのスライドの横で語っている。自分は中ほどの席に座っているとします。興味があって参加した講演なのに、なぜか自分は退屈な気持ちになりながら、眠気を懸命にこらえている・・・。そんな経験はないでしょうか? 僕にはあります。
 そんなとき、どのようなことが起こっているのか? ズバリ申し上げましょう(何がズバリなんだ?)。その講師は「事実」を延々述べているのです。事実を羅列されると、どんなに向上心があっても、退屈という気持ちから逃れられない。講師が正論を語れば語るほど、自分は瞑想または迷走状態に陥る。どんなに聡明な人でもそうなるに違いありません。

事実を語るのはほどほどにしましょう。大切なのは、事実の背後または周辺にあるものなのです。
 事実の背後にあるのは、「自分の思い」です。ここは情熱的に語る部分。講演の場では声を大にして語る。文章を書く際には、情感たっぷりに書く(人それぞれですが)。
 今回お伝えしたいエピソードとは、背後ではなく、周辺にあるものです。必ずしも近くの周辺である必要はありません。冥王星くらい遠くにあっても構わない。ほんのかすかなつながり。つながりが明らかになるのであれば、かなり強引なエピソードであってもよいと僕は考えています。
 事実、僕の持ち出すエピソードはむりやり感があるものばかりでしょう。それでいいんです。
 大事なのは「楽しい」「驚き」「意外」「知らなかった」「変」といった感情を読み手に与えること。講演や講義の場合は、たとえ眠っていても座席から離れることは滅多にありませんが、文章の場合、退屈なものになってしまうと「飛ばし読み」されることになるのです。せっかくいいことが書いてあっても、読まれないのでは価値がありません。
 「本当に伝えたいこと」と「エピソード」を半々くらいの比率にする。難しいことを伝えるには、それに劣らぬほどユニークなエピソードを加える必要がある。そーっと加えることができれば名人級。僕はまだまだ中級者なので、あえて強引に挿入します。なぜ「あえて」かというと、本当に伝えたいメッセージが埋没してしまわないため。本題と関係ないことをわかってもらわないと、書きながら不安になってしまうのです。

エピソードを挿入するには、ある種のセンスが必要でしょう。気をつけねばならないのは内輪ネタの類いのもの。文章に心地よい風を吹き込むには、ウチワよりセンスなのです。
 どんなセンスか? いろいろあります。各自研究してほしいと思います。僕の場合は、超個人的なエピソードでありながら、読み手が自分事に置き換えてイメージできるようなもの。そんな話を提供することができれば、文章としても魅力を高めることができる。冒頭に書いた「蒸発皿」「豆炭あんか」「カイロ」は、ある年代の人には心にスイッチが入る言葉でしょう。パーソナルノスタルジーを刺激するような言葉をそーっと加えてみる。これもちょっとした技と言えるかもしれません。
 さらに「児玉兄弟商会」とか「カイロはもちもちハクキンカイロ」と言ったら、ずいぶんマニアックな世界へ突入することになる。深追いするのはどのあたりまでか? そこにも書き手のセンスが現れます。読み手のことをイメージしておかないと、これも「飛ばし読みされる」一因となってしまうでしょう。
 エピソードは読み手のイメージを広げるとともに、新しい視点を与えてくれるものでもあります。自分の人生の中にある豊富なエピソード記憶を呼び覚ましましょう。では、また明日。

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