第5回 門外漢の取材術

第5回 門外漢の取材術

おはようございます。
 昨日は網走取材でした。朝5時出発。8時半到着。取材は9時から。当初はM氏の担当ページだったが、なぜか僕のほうが適任ということになり、原稿を書くことになった。僕は撮影者でもあるため、取材はM氏にお願いした。僕の場合、たまにあるパターン。取材者ではないが原稿執筆者。そういうやり方はあまり聞いたことがない。僕はライターとしてはイレギュラーな存在ではないかと思う。取材では本文の内容をイメージしながら撮影に徹した。帰り道はやけに眠く、何度も仮眠を繰り返す。午後5時45分帰宅。プレゼン資料作成。10時過ぎに完成。夕食を食べるのを忘れた。

門外漢の貧弱な質問力

僕の本業は写真を撮ることなので、たいていの場合は編集者(ライター)と一緒に取材をすることになります。プロの編集者の取材は、やはり見事なものです。20代の若い編集者であっても、僕のような人間からすると、相当ハイレベルな取材を行っている。非常にうらやましい。なぜなら、僕は取材というものがほとんどできないからなのです。
 それなのに原稿を書き続けて30年ちょっと。これほど長い間、門外漢気分(門外感?)を味わい続けている人間は、そうそういないのではなかろうか? ちゃんとした取材術を身につけることなく現在に至ってしまった。たぶん、僕は一生門外漢のライターとして仕事をすることになるのでしょう。まあ、そういう人間がひとりくらいいてもよいのかもしれません。
 ただ、自分ひとりで取材地へ赴く際には、やはり取材らしき活動を行う必要があります。自分で取材し、自分で写真を撮る。業務として考えると効率はよい。しかし、そんなときは、他の編集者にはお見せできないような取材スタイルとなることがあります。
 取材者としての僕の弱点は、たぶんこういうところにあるのではないかと自覚しています。
 それは「聞くべきことを聞かない」。プロの編集者であれば、あり得ないことでしょう。
 基本的なことを聞き忘れる。通常、取材は5W1Hの質問を重ねていくものです。洗練された取材技術を持った人であれば、「質問を重ねる」という印象を相手に与えることなく、自然な会話の中で取材相手から5W1Hを引き出していく。次々質問されると、取材される側としてはストレスを感じることになります。話したくなるような雰囲気をつくり出す。これが卓越した編集者が自然に行っていることでしょう。
 で、僕は門外漢ですから、質問を重ねることも話したくなる雰囲気をつくり出すこともできないことが多い。スロウで最初に取材するようになった頃は非常に困りました。相手に聞きたいと思うことがない(または出てこない)のです。あるにはあるのですが、それを質問形に置き換えるのにすごく時間がかかる。
 そういう場合はどうなるのかというと、相手が僕の状況を察知してしゃべってくれるというのがひとつ目のパターン。もうひとつのパターンとしては、静かな時間が流れていくというもの。これはこれで味わい深くもある。ですが、取材者としてはけっこう焦りますね。せっかく取材に来たのに、相手に申し訳ないという気持ちになってしまいます。

ノートの取り方で失地挽回

さらに、門外漢の取材術として特徴的なのは、「ノートの取り方がなっていない」というところにあります。
 編集者はそれぞれ自分のスタイルを持っています。それは編集ノートによく現れている。すごい早業で情報を書き留めるタイプの人もいれば、図を駆使するタイプの人もいる。取材の上手な人は総じて取材ノートも美しい。
 美しいかどうかは別として、数年前のスロウ編集部には文字を書き留めるのではなく、取材ノートに絵を描いている人がいました。絵文字か? よくわからない取材方法。僕に近いタイプだったのかもしれません。
 僕の場合は、ほぼICレコーダーだけが頼りということになります。しかし、これではテープ起こしに時間がかかりますから、近年では一応取材ノートも使うようにしています。このとき使うのは青インクの万年筆。なかなか文字にはならないけれども、一応書けるだけ書く。その際には、できるだけ余白をたっぷり残し、贅沢なページの使い方をするようにしています。余白が重要なのです。
 原稿を書く前に音声データを確認するわけですが、このとき重要と思われる事柄を余白に書き加えていきます。使うのは黒インクの水性ボールペン。ひと通り聞き終えると、ノートには青文字と黒文字が並んでいるという状態になります。
 最初から最後までノートを見直してみると、だいたいのストーリーが浮かび上がってくる。ポイントとなるところに赤インクの水性ボールペンで印をつけたり、アンダーラインを引く。こうして、原稿執筆の準備が整う。
 このやり方に落ち着いたのは4、5年前のことでしょうか。以前はあまりにも非効率なやり方でした。この方法に切り替えてから、自分の取材力不足を多少なりともカバーできていることに気づきました。
 というのも、2色のインクで書かれた文字を見るうちにわかってくることがあるのです。
 最初の青インクの文字(取材時のもの)には、僕が重要だと思っていることが書き込まれています。音声データを聞きながら書いた黒インクの文字には、取材相手が言いたかったことが書き加えられることになる。このちょっとした認識のギャップから発見につながることもあります。
 少しずつコツをつかんでくると、取材ノートには必ずしも「相手の話したこと」だけ書く必要はないのだ、とわかってきます。僕は取材しながら、取材場所で浮かんだアイデアを何気なく書き加えるようになっていきました。相手の話を文章にするだけは、興味深い記事にはなりにくい。執筆者の視点を加え、ユニークな解釈が文章の中で表現されていなければなりません。僕は門外漢的な手法をもっと発展させる必要があると考えているところです。

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高原淳写真的業務日誌