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第10回 本当に大切なことは

第10回 本当に大切なことは

おはようございます。
 睡眠時間2時間。なのに、取材旅行。大丈夫なのだろうか? 運転の大部分はI氏に任せ、まずは熟睡態勢。1時間半は眠れたはず。K氏と合流してから札幌で取材2件。これが実に興味深いものだった。眠気を感じることはまったくなく、感心と驚きの連続だった。午後3時頃取材終了。ここで三手に分かれる。K氏は打ち合わせ、I氏はプレ取材、僕は入稿作業。どこで作業をしよう。近場で済ませようと思い、ファストフード店でノートPCを開く。思ったよりすんなり作業は進み、1時間かからずデータを送ることができた。
 5時過ぎ、I氏と合流。1件立ち寄ってから小樽へ。本当は札幌に泊まるべきところだが、宿がまったく取れない状況。今年の夏は特に厳しい。9月の宿予約もできていない。小樽市内で夕食。8時頃、小樽市郊外の宿に入る。

一歩踏み出す勇気

昨日の最初の取材先は、僕らとほぼ同業種。だが、アプローチの仕方がまったく異なっていて、実に示唆に富んだものでした。個人として、一表現者として、まったく同感。僕らもこのような作り方、表現の仕方ができたなら……。そう思わずにはおられません。
 作り手と企業経営者。これを両立させるために、僕は何かを犠牲にしている。たぶん、一緒に取材したK氏、I氏も同様でしょう。経済活動には何か犠牲が伴うもの。のびのびとした自己表現を抑制しなければならない部分がある。
 とはいえ、我が社の、それも出版部門に関わる人の場合は、制約を感じながらも一歩踏み出さなければなりません。経済活動だから自分の表現意欲を抑制するというのでは、おもしろいものは生まれてこないでしょう。制約がある中で、どれだけ自己表現できるのか? そのことにチャレンジしてほしいと常々思っています。これは出版部門だけではありません。広告にも、印刷事業にも当てはまりますね。
 言われたことだけとか、求められていることだけやるというのでは、そこにクリエイティビティは存在しません。「やりすぎ」の一歩手前まで突き進む勇気が必要でしょう。
 僕は雑誌づくりにおいては「スタッフクレジットに自分の名前を記載すること」を求めています。単行本、ムックでも「自著」として発行するのが望ましい。「みんなでつくった」という形でぼかすのは望ましくない。周囲の協力を得てつくられたものでも、編集責任という形で自分の名前を前面に押し出すべきです。それが編集者としての責任と考えています。
 とはいえ、これは20代の若き編集者にとってはちょっとハードルがたかいかもしれないな……。そう思うこともあります。僕は門外漢のライターでラッキーでした。本業はもちろん写真。フォトグラファーとして自分の作品を写真集にまとめる。その場合、著者名はどう考えても写真家以外考えられません。無記名ということはあり得ません。必然的に自分は著者であるという意識になる。
 文章主体のものや雑誌に近いムック本などの場合、実質的に自分の作品であっても、個人名を出さなくて済む場合がある。そうしたやり方に慣れてしまうと、自分の名を出すべき場面でも躊躇することになるのではないか? 一度、やってみればすべての疑問と問題が氷解します。誰か、その一歩を踏み出してほしいと思います。

本業と本物

本業はフォトグラファー。僕はそう思い続けてきましたが、昨日、取材後3人で話しているうちに、僕らの本業は「本業」なのだと気づきました。本をつくること。それが本当の仕事であって、文章を書いたり、写真を撮ったり、デザインしたりするのは、そのプロセスなのだ。
 僕もそろそろ門外漢意識を改める必要があるのかもしれません。ただ、門外漢的なアプローチ法の必要性はありますから、心の中では絶えず揺らぐことになるでしょう。不自由に感じたり、ちょっとした苦手意識を抱えながらも、本をつくるということにできるだけ自分のエネルギーを集めていきたい。経営者としてはそれではいけないわけですが、表現者としてはそうあるべきだと改めて感じました。
 昨日おもしろかったのは、取材の中で「本は物である」という話が出てきたこと。ここは少し見落としていた視点かもしれません。どうしても、意識がハードよりソフトのほうへ向かっていく。本という物質よりも本の中身のほうが重要だと考える。
 しかし、考えてみると、僕らはハードのほうにもいちいちこだわりながら本づくりを行ってきたのです。大部分のところは創刊期に決着がつきました。最大の論点は紙質をどうするかという問題。イメージする紙はありそうでないもの。さまざまな制約を感じながらも、理想に近い紙を選び、今に至っています。
 本は物である。だから「本物」というのか? 本の中身、コンテンツが重要であることは疑いようもないことですが、物としての本について考え、物として魅力を高めていくことで、もっと価値を高められるのではなかろうか? 昨日はそんなインスピレーションを得ました。
 僕らは本の価値、本を手にする、所有する喜びをもっと伝えていかねばなりません。そうした本物を生み出す能力も、必要な機材も、人材も、ノウハウも、すべて社内に整っている。最高と思えるほど恵まれた環境にある。このことに気づいて、僕らは本業に邁進しなければなりません。
 いやぁ、おもしろい取材でした。2人の編集者も何かひらめきがあったのではないかと思います。それを経済活動とどのように結びつけていくか? 組織人としてはそのことも考える必要はありますが、まずはつくってみること。こちらを先行させるべきでしょう。つくらねば何も生まれてきませんから。

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