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第18回 ストーリーは素通り?

第18回 ストーリーは素通り?

おはようございます。
 昨夜は北海道書店商業組合十勝支部の新年会に参加してきました。ネット書店に押され気味の昨今ではありますが、リアル書店が充実しているかどうかは、地域文化の発展という観点から非常に重要なのではないかと思います。地域の書店と出版社が手を組んでできることはないだろうか? 昨夜はずっとそんなことを考えていました。
 ちなみに、北海道の小学生の読書率は47都道府県中第43位(2017年、文部科学省)。非常に低い。北海道の子供は、読書よりもゲームに夢中になっているのでしょうか。もっと本に親しむ場を数多く提供しなければなりません。
 僕の勝手な想像ではありますが、本をたくさん読んで育った人には「ストーリー化する力」が備わっているのではないかと思います。これは仕事人生を充実させる上で、とても重要な能力といえます。自分の人生をひとつの壮大なストーリーと捉える。魅力的なストーリーを描くことができれば、実際の人生も魅力的になり、充実したものになっていくのです。
 近年、自分史づくりに取り組む人が増えてきました。年配の方々は自分の人生のストーリーを記録として残そうとする。一方、若い人たちが取り組むべきことは「未来のストーリー」を描くことです。それは写真家的文章作成技法を身につけることである程度は可能なのではないか? 僕はそう考えています。

事実と真実

今の若手の人たちのちょっとした弱点は、「ネット検索中毒」になっていることです。僕もパソコンの前に座っているとしょっちゅう検索している。僕はスマホでは検索しないと決めています。だから中毒にはならない。けれども、若手の多くは頻繁にスマホで検索する。したがって、必要な事実を実に速やかに手に入れることができるでしょう。
 この「事実」というのが曲者なんですね。検索中毒にかかると、事実第一主義的な傾向が強まっていく。僕は事実よりも真実のほうが人生にとって重要と考えています。ところが、事実と真実の区別をつけていない人が案外多い。事実とは「実際に起こったこと」、真実とは「うそや飾りのない本当のこと」。自分が事実をどう認識するのか? それによって真実が違ってくる。これはネット検索では解明できないことです。僕らは目の前の事実を知るだけではなく、真実を知ろうと努力しなければなりません。
 文章を書くとき、事実第一主義に陥るとストーリー性が感じられないものとなってしまいます。単なる事実の羅列。「ストーリーは素通りなの?」とがっかりさせられる本も少なくありません。ストーリーが置き去りにされている本が世の中にあふれるようになると、本を読むわくわく感が薄れてしまう。ただ情報を伝えるだけではいけない。ストーリーとともに伝えていく。本づくりに携わる者はそうした意識を持つべきでしょう。

では、どのようにストーリーを文章にするのか? そのあたりを考えていきたいと思います。
 写真家的文章作成技法では撮影と同じ手法を使います。ある事実を中心に文章を書こうと思ったら、いったん広角側にズームし、全体のつながりを見ようと試みるのです。ひとつの事実は別な事実とつながっている。あるいは事実の背後に別な何かが隠されているかもしれません。ドローンを操作するイメージで上空から事実を眺めてみるのもよいでしょう。そうすると、ある事実と自分との関係も明らかになってくるはずです。
 そうやって、全体の構造を理解してからストーリーを組み立てていく。実際に執筆する際には、望遠レンズやマクロレンズを使う場面が出てきます。対象に思い切り近づいて精密に描写する。ズームを広角側、望遠側に何度も回しながら、ストーリーを魅力的なものにしていくのです。
 これは小説といった特定ジャンルの手法ではありません。ビジネス書でもハウツー本でも使われています。ちなみに、ビジネス書には体験型と知識型があるをご存知でしょうか? 事実の羅列になりやすいのが知識型。理論をマスターするには効率がよいのかもしれませんが、書物としての魅力という点ではイマイチです。知識型であっても、著者の体験が書き加えられていると読み手の興味は増していくものです。
 ストーリーづくりを避けない。興味が増すよう物語を描く。僕はサケもマスも好きですが、文章づくりにおいてはぜひ「マス」で考えてください。

ストーリーといえば、起承転結が真っ先に思い浮かぶことでしょう。何となく、この順番に書きたくなるのではないかと思います。けれども、必ずしも順番にこだわることはありません。
 僕の場合は、書きたいところから書いていく。途中で気乗りしない自分を感じたなら、書き直したり、順番を入れ替えたりすることがあります。
 書き方はさまざまあってよいでしょう。映画やテレビドラマを見ると、絶体絶命という場面から始まって、しばらくたってから「3ヵ月前は・・・」と「起」に戻るようなものがあります。どうすれば、ハラハラドキドキするのか練ってつくられている。自分の文章に応用できるかどうかは別として、とても参考になりますね。
 自分の人生も解釈の仕方によっては、必ずしも「起」から始まっているわけではないのです。生まれたときがすでに「承」「転」だったという人もいる。家の跡を継ぐという宿命にある人も少なくありませんし、特殊な能力を持って生まれてくる人もいるでしょう。
 先ほどは、空間軸でストーリーを考えるために、ズームレンズを使う手法を紹介しました。これとは別に時間軸で考えることも重要です。過去と現在、現在と未来とのつながりを考える。そこにも重要な発見が数多くあるに違いありません。
 空間と時間が重なり合って複雑に思えるでしょうが、そこに自分にとって特別なつながり、または真実に気づくことがあるはずです。それをストーリー化できたとすれば、間違いなく魅力的な文章になることでしょう。
 素通りするにはもったいない。ストーリー化してこそ、人生の充実があるのだと思います。では、皆さん美しい人生の一日をお過ごしください。

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