第15回 門外漢の証明

第15回 門外漢の証明

おはようございます。
 出社したら、社内は平常時と変わらない空気が流れていた。まずはよかった。そう思ったのもつかの間、「食事会は中止にしたほうが……」との話。まだ停電の家が多い上、信号も消えたままなのだという。知らなかった。自宅の電気がついたので、十勝全体復旧したのだと思い込んでいた。必然的に食事会は延期となった。
 昼は2日連続となる外焼肉。前日より涼しい。日中、外で焼肉を食べていると、どうも平日という気がしない。しかし、午後は一転、仕事に追われることとなった。大量の写真をいっせいに請求されたのだった。みんな、停電によって遅れた仕事を土日で取り戻す気なのか? ともかく、写真を渡さねばならない。セレクト作業に集中。モニターを見すぎて、もうろうとしてきた。
 電気は復旧したものの、電話とネットがつながらない。朝方は通じていたはずだが、昼間はずっと通信エラー。このため、写真はUSBメモリで手渡すこととなった。僕の作業状況を知らないI氏は会社と自宅とを3往復することになってしまった。急ピッチで進めたが、作業が追いつかない。申し訳ないことをしてしまった。
 ようやく全部終わった。そう思って夕食の準備に取りかかろうとしたとき、ふと思い出した。まだ渡してない写真があった。急いで作業する。だが、来週でもいいかな……という気持ちになり、そのまま夕食に。食べ終わろうとすること、チャイムが鳴り、別なI氏が写真を受け取りに来た。作業を終了していてよかった。ネットがつながらないと仕事が滞る。そうわかった一日だった。

アナログな仕事に戻れるか?

ふだんデジカメで写真を撮り、パソコンで原稿を書き、レイアウトする。そして、ネット経由で入稿する。自宅では電磁調理器で料理をつくり、電気温水器でわかした風呂に入る。停電ではいずれも使えないものばかり。マンション住まいの人は、「停電のためポンプが使えず断水している」と話していました。電気とネットに依存している仕事と暮らし。
 ずっと使えない日々が続くとどうなるのでしょう? 僕らは手書きで原稿を書き、レイアウト用紙を使ってデザインし、版下を作成することになるのだろうか? ならないだろうな……。写真のほうはまったくのお手上げですね。フィルムの入手に苦労するでしょうし、暗室用品、薬品もない。20年前だったら、撮影、フィルム現像までは電気がなくても可能でした。僕らはアナログな仕事のやり方に戻ることは、ほぼ不可能といってよい。
 まだデジタル化はしていない僕らの脳は、どのようなことになっているのか? 気になりますね。パソコンやスマホの普及によって、記憶力、思考力が低下しているという話をときどき耳にします。実際、そうした研究結果もあるようです。僕は子供の頃から記憶力がない(忘却力が発達している)人間。なので、さほど不便に思ったことはありませんが、もともと記憶力、思考力のある人が忘れっぽくなったりすると、きっと不安に感じるでしょうね。生命力の衰えを感じることになるかもしれません。
 そういえば、8年くらい前、当時のスロウ編集者N氏が「カーナビを使うと地図が読めなくなる」と主張し、あくまでも道路地図を使い続けていました。脳に与える影響を考えると、正しい判断だったのかもしれません。

本業と門外漢の違い

ソーゴー印刷の創業期、使われていたのは謄写印刷でした。50代以上の人ならたぶん知っている印刷方式。孔版印刷の一種。謄写版(ガリ版)、鉄筆、原紙を使って原版を作り、ローラーを使って1枚ずつ印刷する。一連の工程で電気が使われることはありません。簡便な印刷方式であるがゆえ、戦後に日本で急速に普及していきました。近年も、大規模な災害時に活躍したり、電気の使えない地域(主に海外)で使われることがあります。
 これほど電気に依存するようになったのは、わずか半世紀ほどのことなのです。後戻りすることはないとしても、体の中に残っているアナログな感覚を忘れてはいけない。たかだか1日限りの停電生活でしたが、そんなことを考えさせてくれました。
 僕はたぶん、今でもフィルムカメラを使って撮影することができる。露出計がなくても、だいたい適正露出で撮るだけの経験値は持っています。フィルム現像も、液温計と時計があれば大丈夫でしょう。つまり、写真に関してはいつでもアナログに戻ることができる。
 一方、原稿執筆についてはどうか? たぶん……いえ、ほぼ間違いなく、手書きで原稿を書くことは不可能でしょう。800字くらいなら何とかなりそうですが、それ以上の文章となると、今さら手書きには戻れない。
 デジタル機器に依存しなければ手も足も出ない。このあたりが、門外漢の証明といえるのではないでしょうか? デジタル、またはハイテク機器が自分の至らない能力を補ってくれている。下駄を履かせてくれているおかげで、何となくプロっぽい活動ができているに過ぎません。
 ローテクの時代に戻ってもプロとしての技術を維持できるかどうか? デジタルネイティブの人たちには通じない考えですが、僕にとってはこのことが非常に重要な意味を持っています。自分は今もフィルム現像や引き伸ばしの技術を持っているだろうか? ときどき考えます。そして、いつも自分の中では「YES」という回答を得ています。この自信を失ってしまうと、僕の写真力は大幅に後退することになるでしょう。
 一方、文章力のほうは昔も今も門外漢と自認していますから、失うものはないのです。一太郎に依存した危うい表現手段であるとわかっています。ワードではきっと書かないだろうな……。使用機材、使用ソフトにこだわりすぎる。これも門外漢の証明といえるのかもしれません。

ソーゴー印刷株式会社

〒080-0046 北海道帯広市西16条北1丁目25
TEL.0155-34-1281 FAX.0155-34-1287

高原淳写真的業務日誌