第17回 追体験的取材

第17回 追体験的取材

おはようございます。
 朝6時半、T氏とともに小樽へ向かう。早朝出発が続く。といっても、スロウ創刊期とは早朝のレベルが異なる。14年前は朝4時出発が当たり前。3時出発ということもあった。素人集団による異常なエネルギー。これが創刊には必要なのかもしれない。
 小樽ではT氏と別行動。僕はひとりで取材&撮影。よく知る人物だけに、あっという間に本題に入る。そして、その本題は僕の知っている以上、というよりも異常といってもよいほどの話だった。状況もレベルも異なるが、僕は18年前の自分と重ね合わせながら聴いていた。似たような話を本や雑誌、講演会等で見聞きすることはある。けれども、これほどインパクトのある話は滅多にないのではないか? これを文章に表すことは可能なのか? 書いてよいのか考えながらも、真剣に話を聴いていた。午後1時取材終了。3時間。僕にしては長めの取材となった。
 午後、T氏と合流。昼食を食べてから札幌へ。いったん宿へ。T氏は原稿執筆(たぶん)、僕は少し用事を済ませてから仮眠。6時、札幌駅でK氏と合流。3人で「そらのレストラン」の試写会へ。ここでは14年前の取材の記憶がよみがえってきた。2004年4月のこと。部分的にではあるが、鮮明に映像が浮かぶ。せたな(当時は瀬棚)とは縁があるな……。現実の記憶と映画に登場する映像とが重なり、不思議な感覚にとらわれた。

経験の違いと解釈の違い

昨日は追体験的な取材となりました。決してめずらしいことではないのですが、これほど鮮明で衝撃的なものは滅多にない。自分の過去を頭に浮かべながら取材する。それは自分の脳みそのメモリーを激しく使用することとなり、脳の情報処理速度の低下を招いた。ICレコーダーなしでは書けない原稿。丹念にテープ起こしをすることになりそうです。
 取材では大なり小なり、自分の過去の経験と照らし合わせながら話を伺うことになる。たぶん、スロウ編集部のほぼ全員、そうした取材の仕方をしているのではないかと思います。みんな人生経験が違っているわけですから、経験の違いによって聴き方も違ってくるし、解釈の仕方も違うことになる。その結果、書き上げる記事も違ってくることになるでしょう。
 そのあたりが、取材・原稿執筆のおもしろいところといえます。みんな同じように取材しているつもりでも、一人ひとり関心のポイントが異なる。一撮影者として取材に立ち会うと、「なぜ、この話を聴かないのだろう?」と感じることがあります。それはたぶん、僕の人生経験がそう思わせているのでしょう。編集者の関心は別なところにある。だから、別な角度から別な興味深い話が語られることになるわけです。そんな理由もあって、僕は取材時にはおとなしく話を聴いていることが多い(もちろん撮影しながら)。
 昨夜、試写会後3人で食事をしていたとき、「早く経験を積んで取材相手と対等に話ができるようになりたかった」といった内容のことを某編集者が語っていました。ちょっと話のニュアンスは違っていたかもしれません。ただ、若いということは過ごしてきた人生の時間が年配者よりも少ないということ。それを「経験が少ない」と考えてしまうのも当然かもしれません。
 けれども、僕はそうは思っていないんですね。意味のある生き方をどれだけしてきたか。そこが重要であり、意味ある時間、意味ある経験があれば、回数の多少は些細な問題ではないか……。僕にはそんなふうに考える傾向がある。ですから、僕は20代の人とも対等になれる。というよりも、尊敬してしまうこともありますね。

「教えを請う」という基本形

このあたり、40歳を過ぎた頃から急速にわかってきました。ちゃんとわかったのはやはりスロウを創刊した後のこと。スロウ創刊メンバーは全員僕よりもひとまわり下の丑年。つまり12歳年下。取材相手に選ぶ人物は彼女らと同年代の人が多かった。このため、僕からすると若い人を取材することとなる。そこには若いなりの経験と意味ある時間、意味ある活動がありました。
 取材の仕事のよいところは、年齢がはるかに下の相手であっても「教えてください」というスタンスで接することができることです。今のスロウ編集部は40代のみ不在ですが、20代、30代、50代、60代と各年齢層の編集者が揃っている。その誰もが、「教えてください」というスタンスで取材活動を行っていると思います。自然体のまま、こんなふうにできる仕事はそう多くはないのではないか?  そう思うことがあります。
 取材では、教えてもらわないことには仕事にならない。ですから、立場が上とか下とかということはなく、基本的に対等な関係で進められていくことになります。編集者は「教えを請う」というのが基本形。その人の人生経験を教えてもらうこともあれば、その人の専門分野に関する知識や哲学を教えてもらうこともあります。
 それらを自分の人生経験と照合しながら、仮説を立て、ある考えにまとめ上げていく。取材者によって異なりますが、そのようにしてどんな記事にまとめていくのか、形が明らかになっていく。
 スロウのおもしろいところは、一度記事になった人を別な編集者が改めて取材し、別な記事にすることがあるということ。同じ人が2度、3度と登場することもあるのです。
 そうすると、興味深いことが起こります。書き手が違うため、前回の記事とは少し異なる人物像が浮かび上がってくるのです。事実そのものは変わりありませんが、見え方、捉え方が違ってくる。この編集者にはこの人がこう見えているのか……。そんな違いがわかって、非常に興味深いものがある。スロウのバックナンバーの楽しみ方のひとつといえるでしょう。
 今日はせたな取材。創刊時から何度も訪れた町。今回は14年前の記憶がたくさん浮かび上がってきそうな気がします。

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