
おはようございます。
午前中は会社、午後は自宅で仕事をする。集中して調べ物をするが、あまりはかどらない。夕方近くになってようやく進み出す。5時半から北海道ホテル共栄会役員会。6時から忘年会。
活版とオンデマンドの共通項
先日の東京出張では新橋に泊まりましたが、ここには昭和っぽい雰囲気を漂わせたビルがあります。その中に活版で名刺等を印刷しているプリントショップがあったことを思い出しました。立ち寄ってみると、店は健在でした。やはり、今でも一定の需要があるのでしょう。わかるような気がします。オフセットにもオンデマンド印刷にもない存在感が活版印刷にはある。印刷を「プレス」という意味がよくわかる印刷方式。
ソーゴー印刷にはハイデルベルグ社製のプラテンという活版印刷機があります。今も使用可能ではありますが、ほとんど稼働していない。僕が入社した当時は、おもにナンバリングに使われていました。ナンバリングが必要な仕事は今も数多くあります。入場券などの印刷では必須といえます。
こうした印刷物は、今どのように印刷しているのか? そう、オンデマンド印刷に取って代わったのです。旧世代のプラテンからオフセットに変わるのではなく、ひと世代飛び越してオンデマンド印刷で可能となったわけです。オフセットは同じ印刷物を大量に刷るのには向いていますが、可変データを印刷することはできません。ここがデジタル印刷機(オンデマンド)とアナログ(オフセット)の大きな違い。そして、旧世代のプラテンが部分的とはいえ、可変印刷できるという点に改めて驚かされます。
半月前に行われた全国ぷらざ協議会では、菊全のインクジェット印刷機を見学させてもらいました。オンデマンド印刷にはトナー方式とインクジェット方式があります。現段階で印刷会社に普及しているのはトナー方式のほう。ですが、中長期的に見るとインクジェット印刷機が普及していくことになりそうな気配です。品質も格段に進歩していますし、生産性も高い。何より、トナー方式よりもランニングコストが低く抑えられそう。
どこかの時点で、オフセット印刷機に代わる存在となっていくかもしれません。前回、当面は「オフセットが印刷の主流であり続ける」と書きましたが、小ロットから中ロットにかけての印刷物はインクジェット方式によってつくられることになるでしょう。
さて、ソーゴー印刷にあるのはトナー方式のオンデマンド印刷機。2台ありますが、稼働率は高いようです。今は年賀状印刷シーズン。一年の中でもオンデマンドがフル回転する時期。こうした小さいサイズで比較的少ない数量のものに向いている。他には名刺や各種あいさつ状といったもの。あとは何といっても可変データですね。
可変データの印刷は2通りあって、印刷データを変えながらいっぺんに印刷するというのが比較的多いパターン。別パターンとしては、いったんオフセットで大量に印刷し、可変データ部分のみ加刷するというケース。見た目はほとんどかわりませんから、コスト的に有利かどうかによって印刷方法が選択されます。
「モノ」と「情報」
凸版、凹版、平版、孔版、そしてデジタル印刷(オンデマンド)。今は大きく5つの印刷方式があるわけですが、パッと見た目で違いがわかるのかと言われると、ハッキリわかるのは孔版くらいかなぁ。孔版印刷の代表的なものといえばガリ版(謄写印刷)ですが、この手作りっぽい質感は、今となっては印刷というよりも工芸品に近い味わいですね。
他の4方式も目を近づけてみれば、違いはわかります。凸版は印圧によってわずかながら紙に凹凸ができ、文字の輪郭がくっきりしている。凹版はその逆。インクの乗った部分が盛り上がっていて、手で触るとざらざらしている。紙幣を触ってみるとわかると思います。案外わかりにくいのは平版(オフセット)とデジタル印刷機の違い。10年くらい前であれば、もっとわかりやすかったのですが……。
今はデジタル印刷機の品質が格段に向上しています。ずいぶんオフセット印刷に近づいている。ちなみに、僕の名刺はトナー方式のデジタル印刷機で刷られたものです。肉眼ではわからず、ルーペで覗いてみるとようやく判別できる。印刷の専門家ならすぐにわかるのかもしれませんが、一般の人の場合、区別するのはほぼ不可能でしょう。
今では小ロットの写真集なども、デジタル印刷機を使ってつくられるようになってきました。厳密に言えば、オフセット印刷のほうが再現性が高いわけですが、肉眼で即座に判別できないのであれば、品質はほぼ同等と考えて差し支えないのではないでしょうか? このペースで品質が高まっていくのであれば、どこかの時点でオフセットの質を追い越してしまう可能性もある。
デジタル写真が銀塩写真を追い越してしまったのと同じこと。「いや、銀塩の方が画質がよい」と主張する人も多いでしょうが、これはオリジナルプリントとして展示または収集される場合のこと。印刷を前提とする写真では、デジタル写真にかなわない。
つまり、印刷物や写真に「モノとしての味や存在感」を求めるのであればアナログの方式に一日の長があるわけですが、情報を的確に伝えるという点ではデジタル印刷、デジタル写真のほうが有利。印刷の場合、オフセットとデジタル印刷機の能力が拮抗している状況。いずれ逆転することになるのではないかと思います。
一般ユーザーの視点に立つと、印刷方式にさほどこだわりはないはずです。美しく再現されていれば、アナログでもデジタルでも関係ない。写真展の展示作品であっても、銀塩(アナログ)にこだわる人は今や少数派でしょう。
ただ、印刷物や写真を「情報」と見るか「モノ」と見るか? この違いは永遠に残っていくような気がします。意識レベルではわからなくても、五感を総動員すると何かが違っているように感じる……。前回、「オフセットとデジタルは共存していく」と書いたのは、経済性という問題だけではなく、アナログな質感を求める根強いニーズがあるためではないか? このあたり、引き続き考えてみたいと思います。
