
おはようございます。
午前中は休日として過ごす。午後1時から十勝経営者大学第7講。講師は釧路公立大学の河村一教授。「日本の金融システムと金融政策」というテーマ。実体経済からマネー経済へ変容する中、地域経済はどうあるべきなのか? 僕の考えはまとまらなかった。夕食後、少しだけ仕事をする。
企業経営者が陥りやすい失敗
明後日3月12日、経営指針研究会総括報告会が開催されます。報告集の制作はほぼ完了。特に直しがなければ、あとは印刷するだけ。報告予定の9名の研究生たちは、発表準備を入念に行っていることでしょう。今のところ、40数名の来場者が予定されています。人前で自社の経営指針を発表するのですから、相当な緊張感やプレッシャーを感じているはず。
ただ、本当の勝負は自社に戻ってからであることも、研究生たちは知っています。経営指針をどのように発表し、どのように社内に浸透させていけばよいのか? 誰もが考えていることですが、これが正解というものはありません。それぞれ自分の会社に合ったやり方、自分のマネジメントスタイルに合ったやり方を試みる他ないでしょう。
ただひとつ言えることは、「イメージしやすい伝え方を心がける」ということです。多くの企業経営者はここでちょっとした失敗をする。僕も、わかっていながらつい失敗してしまう。
コミュニケーションの成否はメッセージの受け手が決めるわけです。どんなに正論を述べても、どんなに素晴らしいアイデアを述べても、どんなに思いを込めた理念を述べても、伝わらなければ意味がない。経営者としては、「伝わらなかった」という結果を社員のせいにしてはいけない。自分の伝え方に問題があると考えるべきでしょう。実際、その通りなのです。
ただ、救いといえるのは、ひとりかふたりには伝わっている可能性があるという点。あるいは、100%は伝わらなくても、30%くらい伝わっている可能性がある。自分の現在のコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を考えると、30%でも致し方ないと捉えるべきでしょう。
自社の経営指針を発表する機会は、年に1回必ずやってくる。1年後、30%が40%になれば立派なものです。あるいは、3人か4人、ちゃんと伝わった人が現れれば、非常に心強く感じるはずです。
さて、「イメージしやすい伝え方」ですが、これには社員の立場になってみることが欠かせません。
企業経営者の場合「自社=自分の人生」といった捉え方をするものです。ですから、自社の経営指針、経営計画を考えるだけで、十分に動機づけされるもの。しかし、その捉え方を社員に押しつけるべきではない。社員のみんなはどんなに自社に愛着心を感じていても、「自社=自分の人生」ではないのです。家に戻れば家族がいて、そこには仕事人生とは異なる人生模様が広がっている。それは経営者とて変わるものではありませんが、企業経営者の場合、会社と家庭の距離が非常に近い。僕の場合、プライベートはさほどないといってよい。
したがって、経営指針を社員に伝える際には、必ず押さえておくべきことがあります。それは「自分の人生とどんな関わりがあるのか」ということ。
「自分の人生との関連性」について伝える
崇高な経営理念、夢あふれる10年ビジョン、ストーリー性に富んだ経営方針、理路整然とした経営計画。こうした経営指針ができあがると、企業経営者は高揚し、俄然やる気が湧いてくるものです。しかし、多くの社員は違った感じ方をするもの。素晴らしい経営指針であればあるほど、重圧のようなものを感じることがあるのです。
「こんな大変なこと、自分たちにはできない気がする……」といった感覚。中には、やらされ感を感じてしまう人もいるでしょう。まだ何もやっていないうちから、やらされ感を感じる。このもっとも非生産的なパターンを避けるには、「自分の人生との関連性」をしっかり述べる必要があります。それは「これだけ給与が増える」といった、外形的なものだけでは不十分ではないかと僕は考えています。
せっかく自社の経営指針を作ったのですから、できれば社員一人ひとりの「人生指針」をつくりたいところ。残念ながら、我が社にはまだそれがありません。今はその一歩手前の段階にあります。それは「個人のコア・コンピタンス」という形にまとめられ、各部署ごとに発表会が開催されています。
できれば、経営指針と同じような構成になっていることが望ましい。経営指針の場合、「経営理念」「10年ビジョン」「経営方針」「経営計画」の4要素から成り立っています。同様に、「人生理念」「人生ビジョン」「人生方針」「人生計画」を立てればよい。ただ「経営」を「人生」に置き換えただけ。ですが、感性豊かな社員であれば、自社の経営指針を手本に人生指針をまとめあげることができるでしょう。たとえ、完成には至らなかったとしても、こうしたことをじっくり考える時間を持つだけで大きな意味があるはずです。
「人生との関わり」を感じさせるような経営指針を作成するには、表現の仕方を「会社全体」だけではなく、「個人単位」に細分化する必要があるでしょう。売上、利益額にしても、全体だけではなく「一人あたりいくらなのか」を明示する。10年ビジョンにしても、それが実現したとき「自分の仕事の仕方や暮らしはどのようなものになっているのか」イメージできるものになっていることが重要です。
会社が一人ひとりの人生に深入りすることはできません。しかし、夢のある仕事の仕方、自社への関わり方を提示することは十分可能。その提案が魅力的なものであれば、共鳴、賛同してくれる社員も少なからず現れることでしょう。中小企業家同友会には「社員は最も信頼できるパートナー」という経営姿勢があります。もう一歩踏み込んで、仕事のみならず人生にも深く関わるパートナーとなることができれば、自社にとっても各個人にとっても豊かさをもたらすことになるのではないでしょうか?