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北海道の仕事と暮らし92 創業64年

北海道の仕事と暮らし92 創業64年

おはようございます。
 朝7時半出発。千歳は近い。9時半には目的地に到着。9時40分から取材。小宇宙を感じるような撮影。話も興味深いものだった。昼前に取材終了。次の目的地は滝上。帯広から見ると、千歳とは逆方向。ものすごく遠いのではないかと思ったが、車で3時間半ほど。午後4時過ぎ到着。数年ぶりにT氏と再会。取材の続きのような話になる。それはICレコーダーで記録しておけばよかったと思うような奥深い話だった。

半世紀辛抱できるか?

奥深い話を再現できるだけの奥深さを、僕はまだ持ち合わせていないような気がします。だから、あくまでも僕の解釈として話を進めることにします。
 その話は「目標よりも方向性」という言葉から始まりました。話の中に出てきた「方向性」とは、ビジョンに近いものかな……と思って聴いていました。短期的な目標よりも中長期的に方向性のほうが大事であるということ。もっともな話で何の変哲もないと思われるかもしれません。しかし、それをT氏の人生に重ね合わせて考えると「すごい」ということになるのです。
 ビジネスの形態としては個人事業主。創業から実に64年。我が社の創業とほぼ同時期。すごいのは、僕のような2代目ではなく創業者であるということ。これだけでも僕は驚嘆してしまいます。この道一筋64年。過去の取材でそのことは知っていたことですが、改めて64年という重みを感じずにはおられません。
 本当にすごいのはこの先の話。ご自身の思い描いていた仕事のあり方が現実のものとなったのは、何と創業から50年後のことだというのです。ということは14年前。2005年といえばスロウ創刊2年目。最初に取材させていただいたのは2009年。長い仕事歴を考えると、つい最近のことと言うべきでしょう。
 取材ではあまりに風景が美しいためか、ビジネスに関する話には及ばなかったような気がします。何度か取材しているため、どこかでその話が出てきたとは思いますが、僕の仕事の特性上、被写体のほうが気になってしまいます。今回は一緒に食事をしながら話ができたため、人生とビジネスについてじっくり話を伺うことができました。
 人生としてもビジネスとしても、果たして50年という長い年月を忍耐し続けることができるだろうか? それほど長い期間、理想を描き、自分を高め続けている。しかも、それは今も続いており、理想に近づくために努力が積み重ねられているのです。
 ひとつの仕事を50年続けるという人は、きっと少ないのではないかと思います。普通に会社勤めをすると40年ちょっとで定年を迎える。普通の人の一生分の仕事人生が「ほぼ下積み期間」。定年を過ぎた頃からようやく本当にやりたい仕事ができるようになった……。普通の仕事人生に置き換えれば、そういうことになるでしょう。ここから学ぶべきことは非常に大きなものがあります。
 若手の人が50年という時間をイメージすることは、おそらく困難であるに違いありません。20年ならイメージできても、50年はちょっと無理。それだけ長く生きていませんから、もっともなことといえます。ただ、実感することはできなくても、最大限イメージ力を駆使して、自分の遠い未来の仕事のあり方を考えてみることが重要なのではないかと思います。人生において、仕事とはどういうものなのか? 近年、仕事を軽く考えている人が増えているような気がしてなりません。

美しい世界を見ようとするかどうか

これはIT革命が進んだ1990年代後半以降、顕著になってきたのではないかと思います。バブル崩壊の時期と重なり、古い価値観、とりわけ仕事観が変容または崩壊していくことになりました。それまでビジネスをリードしてきた昭和世代の人たちが自信を失い、デジタルな思考力を持った人たちが台頭してきました。
 それはそれで意味のあること。新しい考えで世の中をよりよく変えていくことが大切。ただ、急速なデジタル化によって、仕事から厚みや奥行きのようなものが一部失われたのではないかと思います。写植からDTPに変わって、文字組みの美しさが損なわれたように、何かが失われた。より便利になった代わりに何かを僕らは失ったわけです。
 新しい世代の人たちはITによって「スピード感」を得ました。その結果、どうなったのかというと、短期的な成果を求めるようになっていったわけです。これは悪いことではありません。スピード感を生かして、次々に能力を身につけていくという優秀な若手もいます。
 ただ、得るものがあれば失うものもある。完全に失ったというわけではないのですが、「長期的視点から仕事人生を見渡す」という思考が弱まってきたのではないかと僕は考えることがあります。若手の人たちの頭の中を覗いたわけではないので、真相はわかりません。あくまでも、行動と言動からの類推。
 僕としては「せめて10年間、ひとつのことをやり続ける」ことが重要なのではないかと思っています。2、3年でひと通りの技術を身につけたとしても、それで一人前になったというわけではないのです。2、3年で身につけられる程度の能力は、おそらく誰にでも手に入る能力。スロウで取材するとときどき出合う「最低10年」という言葉を、若手の人たちにはぜひ心に留めてほしいと願っています。
 10年というのは仕事人としては入門編というべきでしょう。やはり30年くらい続けないと見えてこない世界がある。それが50年、60年となるとどういうことになるのでしょう? もしかしたら、老眼や白内障で目は見えにくくなっているかもしれませんが、別な世界が見えるようになっているはず。
 若手の人は目に見えるものだけを見ようとする傾向にあります。ですから、時間軸で物事を見ることを苦手とする人が多い。それが若さと言ってしまえばそれまでですが、自分の知らない美しい世界があることも知るべきでしょう。それを可能な限り伝えることも、僕らの出版活動の役割のひとつではないかと考えています。

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