
おはようございます。
昨日はほぼ一日食事会の準備。午前中はキムチチゲ作り。本当は本場のチゲを作りたい。しかし、本場の辛さを再現すると、食べられる人は数人に限定されてしまう。というわけで、日本で作るときは日本風のキムチチゲとなる。日本風に仕上げるには味噌を入れるのが手っ取り早い。昼頃できあがった。午後はM氏の手伝いがメイン。大した働きはしていない。他に肉や飲み物の準備。合間を縫って仕事を少々。夕方、いつの間にかテントが組み立てられていた。炭火の用意も。
6時前、集まった人たちでまずは乾杯。新たに人が加わるごとに乾杯していたが、乾杯は4回くらいで終わった。参加者は20数名くらい。お酒を飲んだのは僕とA氏のみ。上川大雪の純米大吟醸を堪能する。料理の主役はジンギスカンと塩ホルモンだが、準主役はやはりキムチチゲ……。そう思っていたら、思わぬ伏兵が。M氏によるホタテ炊き込みご飯が大好評。会の中盤で炊飯器が空になってしまった。次の機会にはもっとインパクトのあるチゲを作ろうと思った。8時過ぎ終了。後片付けはあっという間。K氏らはテントと炭火、T氏はほとんどの食器を洗ってくれた。雨は断続的に降り続いたが、暑くも寒くもなく、案外快適な食事会だった。
脳天直撃
本場のチゲとの出合いは、1988年春のソウル滞在にさかのぼります。どうして韓国へ行こうと思ったのか、明確な理由は忘れました。ただ、ソウルオリンピックの前に訪ねてみたい。そう単純に考えたのでしょう。当時は金浦空港。何となくキムチの香りが漂っていました。
最初は韓国各地を列車かバスで回ってみようと思っていたのですが、なぜかソウルが気に入ってしまい、ソウル中心部にある宿に3週間(もっとかな?)滞在することとなりました。一泊800円くらいの安宿。当時としてもかなり安かったはず。おもしろい人が出入りしていたので、ここに居続けることにしました。
数ヵ月住み続けているらしいオーストラリア人、韓国人とのハーフのフランス人。この2人は僕と滞在期間が重なっていて、不自由な英語を駆使(?)しながらいろいろ話をしました。日本人も2、3人いたかな? たいていの人は数日宿泊して、次の目的地へ向かっていきました。
この宿の特徴は、休憩スペースにいると、何となく韓国人の知り合いができてしまうこと。どういうきっかけか忘れましたが、サムスンに勤めているIさん夫妻と出会い、あちこち案内してもらいました。当時、韓国は外国旅行が自由化されていなかったようです。そして、ソウルオリンピック目前。外国人に対する興味もあったのでしょう。観光案内だけではなく、自宅に泊めてくれたりもしました。
他にも印象深い出会いがありましたが、今回はチゲの話に集中することにしましょう。
最初にチゲを食べたのは、ソウルに到着したその日。宿に荷物を置いて、夕食を食べようと、食堂に入ったのです。ある程度調べてはいたので、僕は最初からスンドゥプチゲに決めていました。豆腐のチゲ(鍋)。麻婆豆腐定食のようなものをイメージして一口食べてみると……。脳天直撃級の辛さ。何と表現したらよいのでしょうか?
そのとき、僕は「自分の頭頂部はここにある」とハッキリ認識しました。わかりにくい表現かもしれません。頭頂部がカーッと熱くなり、そこから汗が一気に噴出してきたんですね。舌がしびれるという感覚よりも、頭頂部にダイレクトに辛さが伝わってくる。そして、大粒の汗をポタポタ垂らしながら完食することになったのです。辛すぎて食べられないと思っていたものが、食べ終わると快感(達成感?)に変わっていた。それ以来、ほぼ毎日、スンドゥプチゲかキムチチゲを食べることになりました。
ケンチャナヨ
毎日同じチゲを食べているためか、韓国で知り合った友人から「こいつは貧乏人に違いない」と誤解され、居酒屋で何度かご馳走されることになりました。韓国人は世話好き。好きでマッコリを飲んでいると、「ビールを飲んだほうがいい」という。気づくと、OBビールを飲むことになっていた。ビール(メクチュ)と焼酎(ソジュ)を一緒に飲むというのが、彼らの飲み方のようでした。
韓国の食べ物をいろいろ味わった旅の前半。韓国人Iさんから「何が一番おいしいか?」と問われ、僕は迷うことなく「チゲ」と答えると、「じゃあ、作り方を教えてあげよう」ということになりました。いろんなものを一緒に食べたのに「大衆料理のチゲかぁ」とがっかりしていたかもしれません。
それはともかく、食材を揃えて、Iさんの自宅で作り方を教わることに。どんな料理教室が始まるのか? 今でいえば「コウケンテツの世界幸せゴハン紀行」みたいなシチュエーションを想像していました。ところが、いざ始まってみると……。
「食材はどの順番に入れるのですか?」(僕)
「ケンチャナヨ」(Iさん)
「分量はどのくらい?」(僕)
「ケンチャナヨ」(Iさん)
ケンチャナヨは「大丈夫」とか「気にするな」という意味。韓国の一般家庭はこんな感じで料理を作っているのか? できがってみると、確かにキムチチゲになっている。だからこれでよいのだ。そのときはそう納得しました。ただ、「料理教室」とはほど遠いレッスン。考えてみると、僕は日本に戻ってからもケンチャナヨ的な料理を作っている。性格的にも味覚的にも僕は韓国料理に合っているのかもしれません。もちろん、高度な技術を駆使した韓国料理もあるでしょうが、いい加減に作ってもおいしいというところに韓国料理の楽しさがあるような気がします。
昨日作ったキムチチゲにはM氏のリクエストにより、油揚げを入れることになりました。これもケンチャナヨでしょう。マイルドに仕上げたら、キムチ風味の豚汁のような味わいになった。次回こそ、Iさん夫妻に教わった王道のチゲをみんなに振る舞ってみたい。そう心に誓った食事会でした。