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第16話 写真作品との接点を増やす

第16話 写真作品との接点を増やす

「untitled」( 1999年、Gallery・DOT) (c) Atsushi Takahara 

おはようございます。
 ものすごく久しぶりに風景を撮影してきました。冬から春へ向かっていく、少し宙ぶらりんな風景……。いいですね。こういう状態のときは意外なところに撮りたくなるものを発見することがあります。このところパソコンに向かう時間が異様に長かったので、ずいぶんリフレッシュできました。

自分の身のまわりに写真作品を置く

マーケティング戦略を練るとき、よく出てくる言葉のひとつが「顧客接点」です。顧客接点を増やすことで、成約件数を増やすことができる。成約率も重要ですが、顧客接点が少ないと率は高くとも件数は増えていきません。
 これが写真鑑賞力と何の関係があるのか? そう思われるかもしれません。けれども、僕は案外単純な理由によって、写真を見る愉しみが増し、写真鑑賞力が高まるのではないかと考えているのです。
 写真作品に関心の薄い人は、写真作品との接点が非常に少ない。ただそれだけのことなのかもしれません。
 学校の授業でダ・ヴィンチやピカソが出てきたら、それをきっかけに美術に興味を持つ人が増えていくことになるでしょう。絵は描かなくとも、見ることを好きになるという人が出てくる。
 一方、写真のほうはというと、学校でエドワード・ウエストンやアンリ・カルティエ・ブレッソンを学ぶことはまずありません。写真の歴史的名作と出合う機会がない。写真の撮り方を教わることはあっても、写真の見方を学んだことがない。このことが「写真好きなのに写真作品好きな人が少ない」という奇妙な現状の一因となっています。
 高校生の3年間は、現実に見える世界の中から自分にとっての意味を見つけようと模索し始める重要な時期ではないかと思います。現実を描写しながら超現実的イメージを伝える写真作品は、10代後半の人たちにこそ見てほしいもの。意味がわかるかどうかは、この際重要ではありません。本当の意味は何10年後かにわかればよい(わからず謎のままでもよい)。写真に親しんで、見ることに慣れる必要がある。写真中心の生活を40年続けてきた結果、僕はそのように確信しています。

写真鑑賞力は写真を仕事としていない圧倒的多数の人にとっても必要なものです。写真鑑賞力を高めることで、現実を見る力も高まっていくことになるからです。
 これまでの人生の中で写真作品と接する機会が少なかった……。そんな人でも、これから写真鑑賞力を高めることはもちろん可能。最初に述べた通り、写真作品との接点を増やすのです。
 自宅や職場の近くにオリジナルプリントを扱うフォトギャラリーがある……という恵まれた環境を持つ人は少ないでしょう。ですから、自宅にそうした環境を整備することがポイントといえます。前回は「自宅にオリジナルプリントを展示する」と書きましたが、ちょっとハードルが高いと感じる人が多いかもしれません。美術作品に比べると、オリジナルプリントはずっと安価。作品の購入はとっても簡単なことではあると思いのですが……。
 写真の持つ特徴のひとつは、オリジナルと印刷物との違いがさほど感じられないという点にあります。写真家の立場からすると「明らかに違う」と主張したいところではあります。けれども、絵画・彫刻と印刷物ほどの差はない。ここは致し方ないところ。
 しかし、どうなんでしょう? ここに写真ならではのおもしろさがある。印刷会社の経営者になって18年近くたち、オリジナルと印刷物のギャップがさほどないところに写真表現の可能性を感じるようになってきました。今の僕はオリジナルプリントを尊重しつつも、写真集をはじめとする印刷物が写真家の最終表現媒体であってもよいと考えています。大量に複製された「作品」であれば、経済的負担を感じることなく、誰もが日常的に写真を愉しむことができるのです。

僕が提案したい生活は、オリジナルであれ、印刷物であれ、自分の身のまわりに気になる写真作品を展示しておくということです。家族の写真を自宅に飾っている人は多いはず。それと同じような感覚で、写真作品を飾ってみる。ポストカードでもいいので気になる作品を飾り、毎日目に触れるようにしておく。それだけでも、写真を見る目が少しずつ変わっていくことになるのではないかと思います。
 僕は高校時代、カメラ雑誌4誌をむさぼるように読んでいました。「読む」というより、そこに載っている作品を丹念に見ていました。オリジナルプリントに触れることになったのは、1982年、京都のギャラリーDOTに出合ってからのこと。
 写真から何かを求めようとする人にとっては、印刷物であっても十分伝わるものです。入口は印刷物でもSNSでも写真展でも構いません。一枚の写真の中に、何か謎がありそうだ……。そこからイメージを広げていくことができるのではないか……。そう直感することが重要です。
 決め手となるのは、直感した後の行動の仕方。僕の場合、入口はカメラ雑誌。大学進学後はギャラリーDOTでオリジナルプリントを鑑賞し、そこでポストカードを購入し、下宿で毎日眺めていました。「見る」というよりも「眺める」という感じだった記憶しています。
 自分の視覚体験の中に写真作品を組み込んでいく。そうすることで写真鑑賞力は確実に高まっていくことになるはずです。
 写真を理解するために作品の解説文を読むこともあると思います。しかし、写真は理性的アプローチだけでは理解しにくいもの。考えてわかるものではなく、感じることでひらめきを得るものだからです。
 インスピレーションを受け取りやすくなる体質をつくる。そのためには写真との接点を意識的に増やしていくことが鍵を握ることになるでしょう。

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