
おはようございます。
昼過ぎ、日創研札幌研修センターへ。新入社員受け入れ研修。我が社からは、僕を含め先輩社員5名が参加。僕以外はみんな初参加。今日から2日間の新入社員研修が始まるわけですが、この研修はサポーターとして参加する先輩社員の学びも大きい。何より、「学ぶ」「与える」というスタンスで2日間参加することが求められます。
印刷=コンテンツ+印刷技術
印刷という仕事から、僕らは何を学び、何を与えることができるのか? 10数年前の僕は考え続けていました。それ以上に、今行っている仕事の意味を自分の中でハッキリさせる必要があったのです。
2000年から2002年にかけて、我が社には印刷事業の他にフリーマガジン「月刊しゅん」の仕事がありました。自前の媒体を発行することで、広告市場の開拓と地域経済の活性化を目指す……。目標は明確でしたが、しゅんはずっと苦戦し続け、2002年頃までは会社にとって重荷になっていました。
しゅんは1998年創刊。僕が入社する2年前から毎月発行され、帯広及び近郊エリアに全戸宅配。創刊当時の発行部数は7万500部ほどでした(今は約12万6000部)。
しゅんの創刊を決めたのは先代の社長。僕は印刷需要の縮小を見越して、事業領域を拡大させるために創刊した媒体だと認識していました。もちろん、そうした理由があったことは疑いありません。しかし、2000年5月に入社し、朝礼などの場で先代の話を聴いているうちに、少しだけわかってきたことがありました。
「我々の仕事は紙にインキを乗せているだけではないのだ」
そうした話が要所要所に出てくるのです。当時の印刷会社的発想では、「印刷物を納めることで収益を上げる」というのが事業発展の最大の鍵だったと思います。印刷物という「モノ」を売る。ところが、しゅんは「モノ」を売っているわけではありません。我が社の中で大きな発想転換が求められる事業となりました。
少し勘違いしていた人も、当時の社内にはいたはずです。売るのは「モノ」ではない。「広告スペースを売っているのだ」という勘違い。さすがに今の編集スタッフであれば、しっかり認識していることでしょう。創刊当初は手探り状態、しかも黒字化に向けて必死という状態でしたから、無理もありません。
しゅんが売っているのは「広告効果」です。クライアントが求めているのは広告出稿によって、来客が増えるとか売上が上がるといった効果を期待してのこと。「広告スペース」も「印刷物というモノ」もほしいわけではありません。
この歴然たる事実から導き出される結論は、印刷という仕事の存在価値は「印刷物を製造することにあるのではない」ということ。印刷物に載っている「情報」にこそ、本当の価値があるのではないか。しゅんは、そのことを明確に気づかせてくれる媒体でした。
同じ頃、僕は「自社の歴史」と「業界の歴史」について調べていました。2つの研修を同時に受講しながら、経営指針を成文化しようとしていたのです。
我が社の歴史から見えてきたもの。それは「理想と現実の葛藤」でした。本当は地域出版の方向へ進んでいきたい……。そんな気持ちを抱きつつ、ビジネスとして成立している「製造業としての印刷」を中心に据え、活動し続けていました。
業界の歴史にも同じような構図を見て取ることができます。グーテンベルクが「42行聖書」を印刷したのは1445年のこと。なぜ、聖書を選んだのでしょう? それは簡単な話、キリスト教世界にとって、「聖書は最大のコンテンツ」だったからに違いありません。人々にもっとも求められていた価値ある情報。印刷技術を確立することが最終目標ではなく、印刷物を世に広めることをグーテンベルクは目指していたのだと思います。
この事実を忘れ、印刷物を製造することが印刷ビジネスのすべてだと思い込んでしまったところに、印刷業界最大の問題があるのではないか? これが当時の僕の考えでした。
印刷ビジネスを再定義する必要がある。僕はそう思い、社内でこのように発表しました。
「印刷=コンテンツ+印刷技術」。本当は「+」ではなく「×」なのかもしれません。でも、「×」だとどちらかがゼロになると、印刷=ゼロということになってしまいます。一応「+」としましたが、場合によっては相乗効果によって「×」になることもあるでしょう。
これにより、我が社の経営理念も明文化されることになりました。
「私たちは価値ある情報を創造、発信、記録することによって、豊かさと幸せの輪を広げます」(2002年制定、2008年改訂)
印刷ビジネスの再定義と経営理念の明文化。その次に僕が行ったのは「印刷」そのものの定義変更でした。
辞書で調べると、「印刷」はこのように説明されています。
「文字、図、絵、写真などの原稿をもとに印刷版をつくり、印刷インキなどを塗布して紙などの被印刷物に押しつけ、機械的に複製すること」
「版」があることと、インキを紙に転写して複製するというのが印刷の最大の特長でした。
ところが、印刷ビジネスの目指すところは「価値ある情報を世に広めること」なのですから、旧来の定義のままでは窮屈なビジネスの仕方になってしまうんですね。定義の変更は我が社だけの話ではなく、業界全体にって不可避な問題ではないかと考えるようになっていきました。
まずは「版」という制約を外そう。これはあっという間に出た結論。すでにオンデマンド印刷が普及していましたから。問題は「情報を紙に転写し複製する」というところ。印刷物=紙媒体という考えから自由になるべきではないか? 必ずしも「紙」である必要はない。
印刷とは「価値ある情報を大量複製することである」。そのように定義し直したことで、我が社のビジネスは広がりを見せていくことになりました。
