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第14話 紙の本と電子書籍

第14話 紙の本と電子書籍

おはようございます。
 個人面談3件と面接1件。一日の半分くらいは面談をしていました。あとはインデザインを使った作業。めずらしく、ずっと会社で仕事をする日となりました。

ペーパーレス化はさほど進まない

日本は八百万の神々の国であるためか、紙媒体が依然として強いですね。印刷会社を経営しているから言うのではなく、ここ10数年、いくつかの経験を通じてそう感じることが非常に多い。
 ソーゴー印刷に入社した2000年、僕はこれから急速にデジタル化とペーパーレス化が進んでいくのではないかと危惧していました。もちろん、どちらも進んではいます。けれども、18年たった今、自分の身のまわりから紙がなくなったかというと、そんなことはありません。きっと、ほとんどの人がそうでしょう。
 印刷会社の経営者でありながら、僕は「ペーパーレス化した仕事」を目指していました。机のまわりにあふれる書類の山が、何ともわずらわしかったのです。周囲を見渡すと、みんな整然と書類を整理しています。単に、僕の片付け能力が低いだけの話。しかし、僕は「ペーパーレス化すればよいのだ」と思っていました。
 スキャンスナップを使って、手当たり次第書類をPDF化。そして、できるだけ書類はメールで送ってもらうようにし、紙の書類の削減に努めていきました。
 ところがどうでしょう? 全然減らないのです。社内では「メールで送って」でわかってもらえるのですが、社外の人たちに同じやり方を通すことはできない。自分の活動領域が広がると、比例して紙の書類が増えていくことになりました。
 情報量が増えると、どんなにデジタル化、ペーパーレス化を試みても、紙媒体が減ることはない。僕はそう考えています。印刷の出荷額は1997年をピークに減少傾向にありますが、これはペーパーレス化を示すものではありません。印刷会社で印刷していたものをオフィスのプリンタで出力するようになった。あるいは、単純に人口減少によって印刷物の量が減ったという側面もあるに違いありません。ひとりの紙の使用量はさほど変わりないと思います。

そんな中、2010年3月、我が社はキンドル対応の電子書籍を発売しました。スロウに連載していた「オソツベツ原野の廃屋から」を英訳して出版したのです。本当は「日本で最初の英訳による電子書籍出版……」とPRしたかったのですが、本当に日本初か証明できなかったため、新聞では控えめな表現で伝えられることとなりました。
 それはともかく、2010年は「電子書籍元年」といわれました。これからすごい変化が起こって、紙の本が急速に売れなくなるかもしれない……。そんな危機感を抱いた出版、印刷関係者も多かったのではないかと思います。
 キンドルをはじめとするeインクの電子書籍端末も魅力的でしたし、iPadを使って本を読む人も増えるに違いない。僕はそんなイメージを描いていました。
 けれども、実際にはそうならなかったですね。僕もキンドル、kobo、iPadを使って本を読んできましたが、やはり紙の本のほうが圧倒的に読みやすい。本を何冊も持ち運ぶのが面倒な旅先では、電子書籍のほうが使い勝手がよいかもしれません。ただ、僕の経験では、電子書籍だと購入したまま読まずにいる本がずいぶん多いんですね。物質として、ちゃんと本が存在する。そのほうが読書意欲が増すような感じがします。
 それにしても、電子書籍の登場によって少しややこしいことになりました。これまで当たり前のように発行してきた本のことを、いちいち「紙の本」と言わねばならない機会が増えてきたのです。もう少し、居心地のよい言葉を考える必要がありそうです。

キンドルの誕生以来、紙の本と電子書籍は対立関係で語られることが多かったように思います。このところは少し落ち着いてきたのではないでしょうか。急速に電子書籍に駆逐されることはなさそうだ……。そんな安心感(?)が広がってきたのかもしれません。
 出版業界の場合は電子書籍そのものに対する脅威よりも、デジタル化による著作権侵害リスクのほうが深刻。海賊版による被害は相当な金額に上ることでしょう。インターネットの普及に伴って、書籍に限らず著作権侵害は途方もなく拡大しています。著作権を保有する個人、企業にとっては頭の痛い時代。ただ、著作権侵害に目をつぶって拡散してもらうことで事業拡大に成功するというパターンもありますから、どちらがよいのかは何ともいえない。ひと言でいえば、ややこしい時代になったということでしょう。
 紙の本と電子書籍は折り合いをつけながら、それぞれの長所を生かして発展させていくことになると思います。AR(拡張現実)を使って紙とネットをつなぐような方法もあります。
 2000年代、多くの印刷会社はインターネットを敵視あるいは脅威と捉えた結果、時代の波から少し後れをとってしまった……という苦い経験を持っています。「異質な何か」が自分たちから仕事を奪うのではないか? そんな消極的な仕事姿勢を持つべきではありませんね。むしろ、自分たちの情報発信手段が増えた、これまでできなかったことができるようになった、と考えるべきでしょう。
 僕の得た結論は、「インターネットも電子書籍も、印刷の一部なのだ」というものでした。第9話に書いた通り、「印刷とは、価値ある情報を大量複製することである」と考えればよいだけの話。「印刷は紙媒体でなければならない」という古い常識から、僕らはもっと自由になってもよいのではないかと考えています。

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