おはようございます。
道東取材3日目の朝。昨日は羅臼と浜中での取材。どちらもユニークな地域おこし的活動。やり方は無数にある。自分たちが楽しめるかどうかが、活動を長続きさせるポイントのひとつといえるでしょう。僕らの雑誌づくりにも同じことが当てはまります。楽しむ(または愉しむ)ことができるかどうか? できなければ、仕事は苦役となってしまいます。
印刷業の将来
取材の中では実にさまざまな話が出てくるのですが、昨日僕がキーワードだと思ったのは「大量生産か適量生産か」という話でした。
この問題は実に悩ましい。そして、ほとんどの業界についてまわるものではないかと思います。特に製造業の場合はこの問題を避けて通ることができません。
時代の大きな流れとしては、大量生産大量消費時代は終わりを迎えようとしているのではないかと思います。しかし、その一方ではデフレマインドも根強い。国際競争も地域間競争も激しいものがあります。ネット調達を是とする人や企業は、どうしても地域企業ではなく格安な企業に発注することになる。同質化した商品を主力とする企業には、成長・発展のチャンスは非常に少ない。
価格競争に耐えるため、設備投資による生産性向上を目指すという選択もありますが、中小企業には自ずと限界があるものです。機械・設備を一新したとしても、それに見合う受注があるとは限らない。
そして、もうひとつ。大企業とは絶対に縮まらないと思われる格差があるのです。それは原材料の仕入価格。印刷業の場合、一番大きな原材料といえばもちろん「紙」。紙の仕入値の差は、企業努力だけではどうにもならない。きっと、全国の中小印刷会社の経営者、仕入担当者が頭を痛めている問題のひとつ。
話はちょっと逸れますが、もう25年くらい前の話。僕らはひょんなことから東京の西荻窪にあったDP店を引き継ぐことになったんですね。僕は「フィルムが仕入値で買える」と喜んでいました。まったくの世間知らずでした。実際に問屋さんから仕入れてみるとビックリ。ヨドバシカメラで買うほうがよほど安い。
普通に商売をすれば、中小零細は絶対にうまくいかないという時代になってしまっています。大型スーパーやコンビニが台頭し、地域の個人商店が消えていったように、あらゆる産業で寡占化が進んでいくことになるのではないか? 帯広にUターンし、印刷人になってから、その思いはますます強まっていくことになりました。
結論はただひとつ。適量生産で事業を成り立たせる道を模索しなければならないということです。価格競争から価値競争へ。近年よく言われる言葉。どの会社も当然価値を高めようとしていますから、並の付加価値ではほとんど意味がありません。異質化された価値。我が社の目指しているところはここにあると考えています。 印刷業の場合、同業他社の動向を見ると、さまざまな異質化が行われています。ひとつにはデジタル化やデータ加工といった分野で異質化しているところがありますね。中には、もはや印刷会社とはいえず、IT企業化した会社もあるでしょう。これも広義では印刷といってよいかもしれません。
広告代理店化していった印刷会社もあります。川上にさかのぼっていくと、よいことがたくさんある。これは僕らもときどき経験していることです。印刷会社の多くは下請け体質を持っています。価格決定権がほとんどない。上流へ行くと、価格が自分で決められるんですね。既存の広告代理店と同じようなビジネスをしていては太刀打ちできませんが、印刷会社的な広告代理業にはこれまでにない異質化された価値がありそうな気がします。
そのあたりから発展して、地域活性プロモーターのような印刷会社も生まれつつあります。これは有望なジャンルといえるかもしれません。我が社の事業も一部はここに当てはまります。したがって、印刷物を製造すること以外にやるべきことが山のように発生する。それを面倒と捉えるか、楽しいと感じるか。製造業的発想のままではうまくいかないのは明らかです。
たぶん、ソーゴー印刷の目指していく方向は、出版活動を軸とする地域活性プロモーター的な会社なのではないかと思います。僕の代に限って言えば、地域企業でありつづけることになるでしょう。ですから、大量生産路線を目指すことはあり得ない。生産性は大事ですが、もっと大切なものがあると考えています。
適量生産ということは、大量生産品よりも価格が高くなることを意味しています。それでも顧客に十分な価値を感じてもらうには、印刷物の物質としての価値ではなく、印刷物に掲載されている情報の価値を圧倒的に高めなければなりません。
それが月刊しゅん20年の歴史であり、スロウ14年の歴史でもあります。僕らは何となく、出版業と印刷業は別々の業界であると思い込んでしまっています。しかし、グーテンベルクが目指していたのは「出版物をつくること」でした。出版の先駆けとしては、ヨハン・フストとペーター・ シェーファーの名を挙げるべきでしょう。彼らもまた印刷技術を駆使して出版物をつくろうとした人たち。誰からの注文を受けて印刷を請け負うというビジネスではなかったのです。
将来の印刷業のあるべきひとつの姿は、受注生産100%にこだわらず、自社企画の印刷商品を開発することではないかと僕は考えています。出版物には限りません。魅力的なステーショナリーを商品化している印刷会社もありますし、紙を使ったインテリアを手がけている会社もある。受注することだけ考えると、発想は限定的になってしまいますが、「何をやっても自由」と発想転換すれば、これまで眠っていた潜在能力が目覚めることになるはず。印刷産業はまだ眠れる巨人といった状態にあるのではないかと思います。