
おはようございます。
3日間の取材旅行から戻ってきました。ユニークな人が多いですね。ジャンルに違いはあっても、それぞれ美しい世界を創り出していこうとする活動であるように、僕には感じられました。そうした活動を丹念に探し、ていねいに取材することがスロウという雑誌の基本姿勢なのだ。いつもそう考えています。
縦横は揃っているか?
印刷の世界も同じ。おもに紙媒体によって美しい世界を表現しようと創意工夫を重ねています。
しかし、印刷事業で重要となるのは美の世界だけではない。当然ながら、経済性をも追い求めていかねばなりません。美と経済性の両立。ここが苦心するポイント。印刷以外の人たちにとっても、そこが重要な課題となっているはず。特に、企業経営者であれば大いに頭を悩ますところといえるでしょう。
DTPが実用段階に入った1990年代。僕は東京で仕事をしていましたが、一部のデザイナーがMacと格闘しながらDTPを習得しようとしていました。僕が使うようになったのは1995年か96年頃のこと。
ソーゴー印刷ではどうだったのかというと、年表には1992年に「マッキントッシュ一式導入」と記されています。ずいぶん早い段階から取り組んでいたようです。
実は僕も早い段階からMacを購入していました(たぶん1993年頃)。しかし、まったく使えず「非常に高価なインテリア」となっていたのです。まるで使えない。Photoshopで何かややこしいことをすると、30分くらい砂時計のマークが出る……。そんな感じ。仕事で使えるようになったのは、その後購入したWindowsと2代目のMacから。Photoshop4.0、Illustrator5.5を使って、手探り状態で覚えていきました。
1990年代、DTPに関しては東京にいた僕よりも、ソーゴー印刷のほうがはるかに進んでいました。当時、僕らが外注していたデザイナーもほとんど使いこなしておらず、「ロゴの作成」といった限定的な使い方をする人が多かった。正確にはわかりませんが、DTPは東京よりも地方の印刷会社のほうが普及が早かったのではないかと思います。
ソーゴー印刷は昔も今も「文字物」の印刷物を得意としています。これは先代社長の「文字に対するこだわり」から来ているのではないかと僕は想像しています。
DTPが実用レベルになってきた頃、QuarkXPressやIllustratorでつくられた文章を見て、先代は苦々しい表情を浮かべていました。
「文字組みが美しくない」
僕は最初のうちはよくわかっていませんでした。写植の文字と何かが違うということはわかりましたが、何がどう違うのかがわからなかった。「そんなこともわからんのか」といった表情を一瞬浮かべた……かどうかわかりませんが、2種類の印刷物を示して、違いを明らかにしました。片方は写植で文字組みをした印刷物。もうひとつはQuarkXPressのよる印刷物。
確かに全然違うのです。僕にもハッキリわかりました。
QuarkXPressでは「ベタ組み」が簡単にはできないのです。ベタ組みとは、「和文組版において字間をあけない組み方」のこと。わかりにくいですね。日本語の書体は正方形の枠の中につくられています。ひらがなも漢字も枠の大きさは同じ。文字が収まるギリギリの大きさの枠(基準枠)よりも、ひとまわり大きな枠のことを「仮想ボディ」と言い、ベタ組みした際でも文字同士がくっつかないようになっています。
つまり、ひらかなやカタカナが続くと字間が空いているように見え、漢字が続くと詰まっているように見えるのがベタ組みの特徴。
初期のDTPでは、活版、そして写植の時代から慣れ親しんできたベタ組みが思うようにできず、欧文のように詰まってしまうのです。その結果、どうなったのかというと、文章の「縦横が揃わなくなった」。
その後、この問題はずいぶん改善されたようです。今ではQuarkXPressに代わって InDesignを使うようになりましたが、10数年前とはまるで使い勝手が違いますね。
お手元に本棚があったら、数冊の本を見比べてみてください。
縦書きの本であれば、縦のラインは揃っているはずです(当たり前ですが)。問題は横が揃っているかどうか?
これはDTPが普及して以降の現象だと思いますが、横のラインが揃っている本は案外少ない。僕の著書でも、よく見ると揃っていないページがあるんです。上に掲げたのは「激訳・キャリアデザイン」(クナウこぞう文庫)の120~121ページ。121ページでは縦横が揃っていることがわかります。一方、120ページのほうは……というと、一部、横のラインが崩れていることに気づくでしょう。ここがちょっと美しくない。
この問題は先代からの指摘もあって、我が社では気をつけているポイントのひとつ。完璧というわけにはいきませんが、我が社で発行している雑誌や書籍では、文字組みにできるだけ気を配るようにしています。それは「美しいかどうか」という問題もあるのですが、それ以上に「読みやすいかどうか」という点が重要なんですね。実際に本を読み比べてみるとわかります。ベタ組みの本は読みやすいが、字詰めされている本は読みにくい。個人の感覚の差はあるでしょうが、日本語は「縦書き・ベタ組み」が一番読みやすいと僕は思っています。
残念ながら、DTPの普及によって、文章の読みやすさよりも便利さ、経済性が優先されるようになってしまいました。
僕はベタ組み至上主義というわけではありませんが、ある程度の作業効率が確保されるならば、できるだけ縦横のラインを合わせたいと考えています。それが欧文にはない日本語の特徴であり、この仮想ボディがあるおかげで、日本語は縦でも横でも美しい文字組みをすることができるのです。英数字、約物が多くなると、どうしても崩れやすくはなるものの、デザイナーのみんなには、文字組みの能力をさらに磨いてほしいと思います。
