
おはようございます。
昨日はやけにハードでした。おかげでいくつかの課題が前に進んだような気がします。
「印刷生活」のシリーズは今日で最終回となります。もっと印刷そのものの話をすればよかったのかもしれません。けれども、そうすると僕の印刷に関する知識不足が露呈してしまうことになったでしょう。僕は印刷そのものよりも、印刷の周辺にあるものに強い関心を持っているようです。それは印刷の定義拡大と関係があるような気がします。
仕事を通じて何を伝えるか?
近年、「効果的な情報発信」とか「伝わるコミュニケーション」といったテーマで、講演やセミナーの依頼を受けることが増えてきました。
情報爆発の時代、伝えたいと思っている相手にきちんと情報が伝わっていない……と感じている人が多いのではないでしょうか。僕自身、伝えたい人に伝わらないと感じているひとり。情報発信手段があまりにも多いのです。たくさんある情報発信ツールに振り回されているという側面もあるでしょう。
また、こうも考えられるのではないかと思います。
あらゆる業種、あらゆる職種の人が「情報発信業」「情報発信者」になったということ。人類はまず「言葉の発明」から始まり、「文字の発明」「印刷の発明」を経て、今は「インターネットの発明」によって劇的に進化しようとしています。20世紀の終わり頃から、人々の生活や仕事の仕方は驚くほど変化しました。
パソコンなしの仕事が考えられなくなったとか、常時スマホを見るような暮らしになった……。そんな外形的な変化ばかりではありません。
これまで「情報の受け手」だった人たちが、自ら情報を発信するようになったのです。マスコミから与えられた情報を見たり読んだりするだけだった生活から、自分の考えや感じていることをSNSで伝え、人々の反応を知ることが簡単にできるようになった。
マスメディアからの一方的情報からパーソナルメディアによる双方向の情報へ。自分は情報発信者なのだという自覚が求められる時代に突入しているのです。フェイクニュースをはじめ、今日さまざま起こっている問題の多くには「情報発信者としての自覚のなさ」が根底にあるような気がします。あるいは、かつての悪意ある為政者が行ったように、情報を操作し、人々をある方向へ誘導しようとする情報伝達行動も見られます。
僕が繰り返し伝え続けていることのひとつに、「情報受信力」があります。情報発信力よりも、むしろ情報受信力のほうが重要な時代なのではないか? そう考えているのです。情報受信力の低い人が情報発信のテクニックだけ身につけようとすると、困った事態を招きやすい。自分の発した情報が人々にどのような影響を与えることになるのか、きちんとイメージする能力が求められるのです。僕自身、情報受信力をもっと高めなければ……。そう考えさせられますね。
我が社が「印刷」の再定義を試みたり、印刷業の事業領域拡大を進めているように、今日の企業の多くは、自社の事業を再定義しようとしているのではないかと思います。
商品を作って売っておしまい……という企業はあまり見られなくなりました。実際にはそうした企業もあると思いますが、これからの時代、それだけで生き残っていくのは厳しいでしょう。商品の製造や販売を通して、「何を伝えたいのか」「人々の暮らしや世の中をどう変えていきたいのか」。ここが問われる時代なのではないかと思います。
我が社は60数年前の創業から一貫して印刷業を営んでましたから、「印刷物を通じて価値ある情報を発信しよう」と考え続けてきました。
農業生産法人や農業者の場合はどうなのでしょう? 作っているのは印刷物ではなく農産物。情報発信ツールではなく、食べ物ということになります。しかし、おいしい食材、安心・安全な食材を提供することで、何らかのメッセージを伝えようとしたり、人々に豊かさをもたらせたいと考えているのではないでしょうか?
農業も製造業もサービス業も同じ。自分たちの会社の商品・サービスを通じて自社の考えを伝えたり、世の中をよりよくしていこうと考えているのです。つまり、商品そのものに価値があるというよりも、自社(または作り手)の「魅力的な考え方」にこそ価値がある。僕はそんなふうに考えているのですがいかがでしょう?
「プリント(print)」という言葉には、「印刷」の他に「心に刻みつける」「印象づける」という意味があることを第1話に記しました。
大量生産大量消費の時代が終わり、今、人々はこれまでとは異なる価値を求めています。物質的な豊かさより、精神的な豊かさを求めるようになってきているのです。ですから、製造業であっても「モノ」を売るという発想であってはいけない。価値を認めてもらって、買っていただく。さらにいえば、魅力的な考え方を伝え、共感とともに買っていただく。そんなビジネスの仕方に変わってきています。
あらゆる産業が印刷業になる……。そんな無謀な結論を導き出すつもりはありません。けれども、あらゆる産業が情報発信業になりつつある。そしてプリント(印刷)というものを意識するようになっていくのではないか? 僕にはそう思えてなりません。
これまでのように紙媒体が主役であり続けることはないかもしれません。けれども、印刷の果たすべき役割はこれまで以上に重要性を増していると考えてよいでしょう。形ややり方を変えながら、印刷は発展し続けていく。僕は印刷業に対して、そんな明るい展望を持っています。
僕個人としては、これまで一貫して印刷生活を送ってきました。皆さんの人生はどうでしょう? 印刷生活とはいえないまでも、情報発信や魅力的な考えを伝えるという点で、印刷に通じるような生き方をされてきたのではないかと想像します。きっとこれからも印刷生活が続いていくことでしょう。