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第16話 遊文館の事業領域

第16話 遊文館の事業領域

おはようございます。
 今朝の所沢は雨。昨夜から降り続いています。強かった風は収まり、今はただ雨が降っているだけ。これから蒸してきそうな気配です。
 昨日は西荻窪にある遊文館ビルの片付けをしてきました。といっても、大部分片づけられていて持ち運んだのはほんの少し。ほとんど写真を撮りに行ったようなものです。超広角レンズを持っていけばよかった。部屋の全景を撮ることができなかったのが少し残念。遊文館ビルを離れて18年たちますが、ここにパソコンがあって、プリンタはここで、Tシャツのプレス機はここにあった……という情景が今でもリアルに浮かんできます。

本業以外に手を出す

 高価なスニーカーが売れなくなった1997年頃、販売の主力はプリントTシャツに移っていました。おもに白ボディのTシャツを仕入れて、熱転写プリントする。転写シートには淡色用と濃色用がありました。僕らは9割くらいのデザインが淡色用。価格は3800円と2900円の2種類。
 最盛期(といっても儲かっていたわけではない)には西荻窪、代官山、北九州に直営店を持っていました。ただ、どの店も売上は芳しくない。したがって、卸売りに力を入れていました。外代(卸値)は6掛けが標準。定価3800円のTシャツの場合は2280円。取引額によっては掛け率を交渉されることが多く、4.5掛けというところも1軒だけありました。不思議なことに、その4.5掛けの会社の社長とは札幌での研修で一緒に学ぶことに。当時、取引のため遊文館ビルにやってきたのは弟の専務でした。
 不思議な偶然は他にもありますが、ここでは割愛します。
 当時を振り返ってみると、僕は企業経営について何もわかっていなかったという一言に尽きます。当たり前ですね。何も勉強してこなかったのですから何も知らない。その頃、中小企業家同友会のような団体に加入して学んでいたら、状況はまったく違ったものになっていたでしょうね。
 結局、僕は帯広にUターンし、ソーゴー印刷に入社した1年後から経営の勉強をするようになりました。2002年当時は「本業以外には手を出すな」といった講義内容が多かったと記憶しています。バブルの後遺症でどの会社も苦しんでいた時期。できるだけ身軽になって、自社の得意分野だけに集中する。コア・コンピタンスという言葉も盛んに使われていました。
 それから10数年たった今日、風向きはずいぶん変わってきたように感じています。この点は個人の感じ方、受け止め方によって差異があるような気がします。
 僕は、「本業に集中しすぎるのは危険」だと考えるようになりました。そして、本業そのものを再定義しなければならない。技術の進歩が著しく、これまでの本業の形やビジネスの進め方が一変してしまっているのです。古いやり方、古い商品にとらわれていると、どんどん時代遅れな会社になってしまう。そんな危機感があります。今は自社のコア・コンピタンスを活用して、横展開または縦展開していくのが正解ではないかと思います(本当は正解などありませんが)。

 20年前の遊文館も、ある意味では横展開を積極的に行っていました。積極的というより「無謀にも」といったほうが正確でしょう。代官山はともかく、なぜ北九州(ラフォーレ原宿)にまで出店したのか、今でも不思議でなりません。引き際を間違え、前のめりになっていた。今考えると、そんな心理状態だったと思います。
 コア・コンピタンスという概念がなかったことが、誤った横展開へ突き進んだ理由のひとつだったのでしょう。たまたまファッション誌の仕事をしていただけのことで、ファッションに精通しているわけではなく、SPA(製造小売業)のビジネスに詳しいわけでもない。核となる強みは持っていなかったのです。しかも、自分の好きな世界ではなく、単に「売れそうだから」という理由で始めたビジネス。このあたりに最大の問題がありました。
 今なら「経営理念が大事」ということが痛いほどわかります。また、経営理念があるだけでは意味が薄く、「理念経営」をしなければならないと考えています。本当にソーゴー印刷が理念経営できているかどうか? まだ道半ばといった状況にあるでしょうが、少なくとも会社全体はその方向へ進んでいる。経営理念があって、理念経営しようとするから、人が成長し、価値ある商品が生み出されるのだと思います。

 僕は自分が過去に行ったことで後悔することはさほど多くはありませんが、一番後悔すべきことと捉えているのは、遊文館の時代に「人材育成を怠ってきたこと」でした。この点については、当時のスタッフに対して申し訳ない気持ちでいっぱいです。
 たぶん、設立から6、7年くらいの間は、曲がりなりにも若いスタッフを一人前にすべく指導・育成していたと思います。僕らは雑誌づくり、広告づくりが好きでしたし、得意でもあった。だから、自分の仕事を熱心に行うだけではなく、一緒に高め合うことができたわけです。
 ところが、セレクトショップを開店したり、プリントTシャツの製造・販売といった仕事では、自分のこれまで蓄積した経験や知識を生かすことができない。その上、自分の好きな仕事とは違っている。だから、「売れるかどうか」という価値基準しか持つことができなかった。
 理念も哲学もないわけですから、指導するといっても「プリントTシャツのプレス機の使い方」だったり、「フォトショップやイラストレーターの使い方」を教える程度のもの。当然、価値観を共有するなどできるはずはありません。1997〜2000年の遊文館は売上の乱高下と価値観の不一致。2つの問題を抱えていました。
 ただ、肯定的に物事を捉えるならば、この数年間で僕らは得がたい経験をすることともなりました。ソーゴー印刷に入社後、過去の失敗は繰り返すまいと思ったからです。ソーゴー印刷でも僕はいくつも失敗を重ねていますが、経営理念と事業領域については真剣かつ慎重に考え続けています。これは過去の苦い経験があるおかげと言ってよいでしょう。

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